バァンッッ!!
恐ろしい音と共に、襖が開かれる。
が驚いて振り返ると、そこにはタバコを銜え、
不機嫌そうに眉間に皺を寄せてたたずむ恋人の姿があった。
−本心−
「トシさんやないの・・・びっくりしたわ。
どうしはりましたん?ずいぶん機嫌が悪そうやけど・・・」
が声をかけるや、トシゾーは開いた襖をまたも勢い良く閉める。
その様子を見て、なぜ機嫌が悪いのか、一生懸命考える。
の前にドカッと腰を下ろし、を睨みつけるトシゾー。
「・・・どないしはりましたん?トシさん、今日はいつにもまして
怖い顔してはりますえ?」
「何が悲しくて、自分の恋人に会いに来るのに
高ぇ金払わなきゃなんねぇんだ!」
そう、ここは色町の一角。池田屋という女郎屋である。
ここの人気1、2位を争う花魁、が心戦組副長、土方トシゾーの恋人なのである。しかし、花魁のとは仮の姿。
実は心戦組の一員、八番隊隊長、藤堂が真の姿だ。依頼は、ほとんど自分の部下に任せ、この色町で情報収集を主な仕事として行っているのだ。
怪しまれるといけないので、周りの花魁たちと全く同じ生活をしている。故に、勝手に色町の外へ出ることもほとんどない。からの情報を得るのも、また、逢引するのも店の中となる。
心戦組隊員がの元を訪れるときは、ここの女将は特別に値引きしてはくれるが・・・高い料金を払わなければならないのは事実。
さらに、情報を受け取りに来るのとは違い、ただに会いたいがために来る場合、当然のごとく心戦組の予算で経費は落ちないので、自腹になる。いい加減この状況を何とかしたいとトシゾーは考えていた。
本当なら、片時も離れず一緒にいたいと思うのに・・・花魁であるから、もちろん自分以外の男にも抱かれている。高い金を出してを抱きに来る男たちが多いということはそれだけが魅力的に女だということに代わりはないだろうが・・・とにかく自分の恋人が他の男に抱かれているのを想像するだけで、腸が煮えくり返る思いがする。
さらに、会うのに高い金を払わなければならないので、そうしょっちゅう会うことも叶わない。
「トシさん?本当にどうしはりました・・・」
「その喋り方やめろよ。なぁ?藤堂。」
「・・・ここは池田屋ですえ?ウチはここの花魁・・・どす。」
「・・・京弁下手くそじゃねぇかよ。」
その言葉に、さすがのもキレた。
「・・・ええ加減にしろや!わいの仕事の邪魔すんなら帰れ!!」
まるで別人のように、凄まじい剣幕で捲くし立てる。本来の「藤堂」の降臨である。
いつも「」という仮面を被っている「藤堂」は、一度箍が外れると、しばらくこの状態が続く。まさに白黒はっきりした性格と言えよう。
「好きでこんなことやっとると思うとるんか?そんなわけあれへんやろ?!好きでこんなことやっとるんとちゃうわ!ほんまやったら、わいかて戦いたいわ!!せやけどなぁ、ここで情報収集できる隊員、わいの他に居るか?!わいくらい正確に情報収集できる奴が居るんやったら、どうぞわいの代わりに使えや、副長さんよぉ!!」
このセリフを一息で言い切ったは、はぁはぁと息を荒げて、その場で頭を抱え込む。その迫力に圧倒されたトシゾーは、何も言えずに呆然とのことを見つめていた。
「・・・・・・悪かった。」
トシゾーには、そういう言葉しか掛けられなかった。トシゾーの心に引っかかった言葉。
「好きでこんなことやってるわけじゃない」
それこそがの本心。そんなことを考えもせず、金の心配ばかりしていた自分の浅はかさをトシゾーは恥じた。
「すまない・・・」
こんな自分では・・・を・・・いや、を抱く資格などないと、その場を立ち去ろう立ち上がった。
「ちょぉ待てや・・・」
頭を抱えていたが、見上げてくる。
「・・・なんだ?」
「ホンマに帰るんかいな?帰れ言われて、帰る奴なんて滅多にいぃひんで?その・・・言い過ぎたわ。堪忍してや・・・」
頭を掻きながら、顔を赤らめて見上げるその瞳に、思わず鼓動が早鐘を打ち始める。
花魁の、その色っぽい艶やかな着物姿からは想像することはできないであろう、の本性。それを知っているのは、自分だけだと確信し、その日はそれで良しとした。
もちろん、この日のトシゾーが午前様だったことは言うまでもない。
翌日。
「・・・」
「あら、女将さん、おはようさんどす」
「あんた・・・トシさんにあの口の利き方はあれへんのやないの?」
「え・・・聞こえてました?」
「そら・・・あれだけ大きな声出せば聞こえるわ・・・なぁ?」
傍にいた花魁たちに女将は同意を求めた。
そこに居た花魁たちは、くすくす笑いながら、女将の意見に同意した。
「昨日のあの時間帯はあんまりお客入ってへんかったから良かったけど・・・今度あんな夫婦喧嘩みたいなことしたらきっとバレるで?」
「・・・以後気をつけます・・・」
顔を真っ赤にしながら、自分の軽率な行動を心から悔いるであった・・・。
土方さんです・・・。
ちょっと怖いです。
ヒロインの苗字、「藤堂平助」から取ってるんですが・・・
そのうち出てこないか心配で心配で・・・(苦笑)。
ギャグテイストにするつもりでしたが、
ギャグテイストになりきれてません(爆)。