貴女を見つめると、胸が痛くて仕方がありません。
守ってあげなくては壊れてしまいそうで・・・。
貴女は知らないと思いますが、貴方は私の薬なんです。
飲み込んでしまえるのは、私だけなんですから・・・



−限界破裂−



医局長である高松は、年甲斐もなくかなり親子ほど歳の離れた年下の女性に片想いをしていた。彼女を見つめるたびに心臓は破裂するかのように鼓動を早め、体中の血が顔に集まったように顔があつくなる。
そんな様子を見ていた友人のサービスからは冷ややかな笑いを受けたが、正直今の高松にとってそんなことはどうでもいい。
高松の意中の人は、同じ医局に勤める薬剤師。今年免許取り立てていきなりガンマ団本部に配属された女。名は。小柄で、空のように澄んだ青い目、少しウェーブのかかった金色の髪。
サービスが冷ややかな笑いを高松に向けたのは、何も年下の女に片想いしているからというだけではない。その片想いの女性、は・・・グンマに重なるところがありすぎるのだ。

「高松、君がに惹かれているのは、本当に彼女のことが好きだからなのか?それともグンマに似ているからなのか・・・?」

「た、確かにはグンマ様に似ているところもありますけど・・・」

間接照明で薄暗くライティングされた、大人な雰囲気のバーでグラスを傾ける中年男二人。そろいも揃って美形なので、女性客の視線を集めないわけが無い。

正直、高松にもよくわからなくなっていた。本当にのことが好きなのか。グンマに似ていることに気がついたのは、サービスに言われてからだった。子供の頃から世話をしてきたグンマを彼女の重ねているだけなのではないか。今、高松は今までにない不安を抱えているのだった。

ガヤガヤと、この店にはそぐわぬ下品な声を発する若者たちが店に入ってきた。高松とサービスは、二人とも眉間に皺を寄せて彼らに視線を送った。さながら「今時の若いもんは・・・」的な視線。そんなことにいちいち腹を立てるようになると、もう本当に中年だ、などと高松は思った。その視線の先にいる若者たちと、はおそらくそれほど歳は離れていないだろう。
高松は若者たちから視線を逸らし、グラスの中に残っていたウィスキーを一気に飲み干した。

「痛い・・・やめてください!!」

「いーじゃん。一緒に飲もうぜ!!」

早速若者たちは傍若無人な振る舞いを始めた。煩わしく思った高松だが、若者たちの方へと視線を向けずにいると、サービスが、

「高松、見ろ。」

と若者たちの方を見るように促した。面倒くさいと思ったが、視線を向けると・・・。そこには必死で若者たちの腕を振りほどこうとしているの姿が。
驚いて高松が立ち上がろうとした刹那。

「・・・やめろって言ってんだろ?!テメェらになんか用はねぇんだよ!!わかったらさっさと失せやがれ!」

今までのからは想像もつかないほどの暴言がの口から確かに聞こえた。店はシーンと静まり返る。視線は若者たちの次の行動へと注目されている。若者たちはバツが悪そうにして、店から出て行った。静まり返った店内も、先ほどまでの雰囲気に戻りつつあった。も自分の席に着き、残ったカクテルを飲み干している。しかし、その肩は恐怖からか、小刻みに震えていた。

「・・・サービス。」

「何だ?」

「今、やっとわかりましたよ。私は、のことが好きです。」

「それを俺に言ってどうするんだ。伝えるべき相手はだろう。」

「そう・・・ですね。」

高松は、再びグラスに注がれていたウィスキーを一口飲んで、口を噤んだ。
サービスにはわかった。高松が本気でに告白しようと考えていることが。真剣に何かを考えると、高松は一言も発しなくなる。学生時代から付き合ってきたのだ、それぐらいのことは知っている。ここにいれば、きっと何時間も居座ることになるだろうから、とりあえず自分の家に戻るように高松を促し、サービスと高松はその店を後にした。


翌日・・・


「話があります。局長室へ。」

が出社すると、の机の上に少し右上がりな癖のある文字の伝言がおいてあった。医局局長、高松の文字。不安に思いながら、は局長室へ徒歩を進める。鉄の扉の前に立ち、ブザーを押した。

『誰ですか?』

です。」

『入りなさい。』

「失礼します。」

鉄の扉はを招き入れるようにプシュッという音を立てて開く。目の前には、白衣を着て、珍しく髪を束ねている高松の姿があった。

「おはようございます。珍しいですね、髪を束ねているなんて。」

「邪魔だったもので。ちょっと私に付き合ってください。」

そういうと、高松は今が通ってきた鉄の扉を通って外に出た。慌てても後を追う。どこに向かっているのかはしばらく分からなかった。軍事施設とはかけ離れたものしかおいていない棟へと進んでいく。そこには、喫茶店や食堂、コンビニなどが並んでいる。ガンマ団の施設内は、外に出なくても暮らしていけるほど施設が充実しているのだ。

「ここにしましょう。」

高松がそういって入っていったのは、こじんまりとした喫茶店だった。ガンマ団の団員で、このような店を好む者はそれほどいないだろう。事務やら医局に勤めている女性団員は別として。男性団員はこんなお洒落な喫茶店より、質より量な定食屋や、ファーストフードを好むはず。喫茶店を選んだのは高松らしいとは思った。しかし。

「局長?もう仕事始まる時間ですけど・・・」

「タイムカードは押してきたでしょう?なら問題はありません。私との仕事の打ち合わせということにしておいてあげますよ。」

「はぁ・・・」

店のウェイトレスがやってきて、注文を聞いた。高松はブレンドコーヒー、はアメリカンを注文した。

「あの・・・話って?」

わざわざこんな場所まで連れ出して、一体何を言われるのか、正直は気が気ではなかった。最近眠れないのでハルシオンを薬棚からくすねたのがばれたのだろうか?

「・・・、昨日は大変でしねぇ。」

「昨日・・・?」

「バーで男たちに絡まれてたでしょ。」

「み、見てらっしゃったんですか?!」

の顔は一気に赤くなる。そして、男たちを一蹴した言葉を思い出す。仕事で他の自分を演じているつもりはないが、昨日のあの瞬間は珍しく自分の本性を曝け出した瞬間だった。

「あ、あれは・・・」

何とか弁明しようとは口を開いたが、その言葉を遮ったのは、他でもない高松だった。

「いいから話を聞いてください。今まで、私は悩んできたんです。貴女にこんな感情を抱くのは、グンマ様と重ねているからではないかと。サービスにもそう言われて、本当にそうなのではないかと・・・貴女を諦めようとしていた。」

「あの・・・?」

は話が見えていない。目の前に置かれたアメリカンコーヒーをとりあえず啜る。

「でも昨日・・・貴女が男たちに向かって叫んでいるのを見て実感しました。私は貴女とグンマ様を重ねているのではないと。もしもグンマ様と重ねているなら、あんなに叫んだ貴女を見たら幻滅するはずですから。でも、私は貴女に対して幻滅しなかった。むしろ、本当の貴女が見れた気がして嬉しかったんです。そして、カタカタと震えている貴女を見て・・・守ってあげたいと、そう思ったんです。」

コーヒーカップを持ったまま動きを止めた

、私は貴女のことを愛してます。貴女とは親子ほど歳が離れているかもしれない。でも、私は本気で貴女のことを・・・」

「高松・・・さん・・・私も、貴方のことを好きでした。」

「じゃぁ・・・」

「私を、恋人にしてください。」



「高松、その後、とはどうなった?」

久々にサービスから電話が来た。あのバーでの事件以降会っていなかったので、その後のことが気になっていたらしい。高松が時計を見ると、午後の11時半。こんな時間に電話をしてくるサービスもどうかと思うが、高松にはどうでもよかった。

なら隣で寝てますよ。」

「・・・」

その答えに対して、何も言い返せないサービスだった。




あーはーはー。
やっちまいました。高松。
子離れしない人!!
ちなみに、私、彼と誕生日一緒です。
今後は、大人な話を書いていきたいなぁ。
キャラの年齢とわず!!