それはナイフのように、私の胸に突き刺さる。
貴方のその優しさは、私の胸に深く深く突き刺さるの。
貴方は償いのために優しくしてくれるのかもしれないけど、
貴方はわかってない。
その優しさが、どれだけ私を苦しめているのか。
それは太陽の光のように、私の心に染み渡る。
君のその笑顔は、私の胸に広く広く染み渡る。
君の微笑みを取り戻すために、私は君の元へ通うけれど、
君は分かっているだろうか?
その微笑みが、どれだけ私を癒してくれるのか。
−My Immortal−
恋人だったジャンを亡くして、は悲しみに打ちひしがれていた。そこは戦場。彼の命はあってないようようなもの。そんなこと、同じ士官学校にいたにも分かっていたこと。それでも、戦場で彼が命を果てたのが悲しくて。毎日のように泣き濡れて、過ごしていた。ジャンの傍で目を覚ましたのは、ジャンとの共通の友人、サービス。戦場から帰ってきたサービスから聞かされた最初の言葉。
「ジャンを殺したのは・・・私だ。」
そんなサービスの右目には、痛々しい包帯が巻いてあった。あとから聞いた話では、その場で秘石眼を抉り取ったらしい。
信頼しあっていたジャンとサービス。何か諍いを起こしてジャンを殺したのではないことはにはよくわかっていた。
「貴方がジャンを傷付けてしまったのは、何か理由があっての事なんでしょう?それで秘石眼を抉り取ったんでしょう?貴方は十分な罰を自らの身にかせた。これ以上、私は貴方の事を責めることは出来ないわ。」
自分自身の身を呪ったサービスにとって、その言葉は何よりも救いとなった。しかし、自分自身を許すことが出来るほど、彼の心の傷は浅くはなかった。
とジャンは、周囲も認める仲の良い恋人同士だった。親友であるジャンの幸せを心から願っていたサービス。また、ジャンと同じように、その恋人であるにも幸せになって欲しいと思っていた。だが、その幸せを奪ったのは他でもない自分。それがサービスには許せなくて。
せめてもの償いに、の幸せを十分に見届けよう、サービスはそう決心した。
ジャンがこの世からいなくなって、数年の月日が流れた。恋人を失ったせいで、は戦場へと赴くことが出来なくなった。頭では戦場へ行かなければならないことは理解しているのに、体がそれに拒否反応を起こす。他の隊員が前線で視線をくぐり抜けているというのに、前線に出ることが出来ない自分を、は疎ましくさえ思っていた。しかし、何らかの形でガンマ団の役に立ちたくて。級友であった高松の助手として本部で働いていた。
そんなの元へ、月に2、3度サービスは顔を出す。何かしらのプレゼントを持参して。
ドレスや香水、とにかく女性の喜びそうなものを選んでは持ってくる。そんなサービスの心遣いが嬉しくて、もサービスが来ることを心待ちにするようになっていた。
しかし、ある日・・・
「やぁ、。今、少しいいかい?」
「えぇ。」
今日もサービスは小さな小箱を持って医局に顔を出した。件のことを知っている級友の高松は、それで二人の心の傷が塞がるならと、彼らがともに医局から出て行くことを止めようとはしなかった。二人がどれだけ深い心の傷を負っているか、一番よく理解しているのは高松だった。
ガンマ団内にある小さな喫茶店。二人の行きつけの喫茶店だった。いつもと同じように、サービスはアールグレイ、はオレンジペコの紅茶をそれぞれ頼んだ。
「少しは・・・落ち着いたかな。」
「先週も、その前に会った時も、二人で会うようになってからずっと同じことを言っているわね、サービス。」
困ったような笑みでは返した。
いつも同じセリフを言うのは、サービスにとって、はいつまでたっても傷ついているように見えたから。元のあの笑顔は見られないのだろうか。士官学校の時代に心を奪われた、まるで太陽のようなあの笑顔を見ることは・・・。その太陽を射止めたのは、親友であるジャンだった。それでも、その太陽が輝き続けるならそれでいいと思っていた。しかし、その太陽がきらめきを失ったのは、他でもない自分のせい。
サービスの心は、に会うたびに傷が深くなっていくようにさえ感じた。彼女の太陽の如き笑顔を、取り戻せるならば、どんな事だってするのに・・・。
「これ、蚤の市で見つけた、パールのイヤリングなんだ。蚤の市には意外な掘り出し物も多くてね。君に似合うと思って買って・・・」
「いらないわ。」
いつもなら「ありがとう」と一言言って受け取るが、今日に限って受け取ろうとしなかった。やはり、サービスのことを許していなかったのか。不安が頭をもたげる。心臓は、狂ったように早鐘を打っていた。今すぐこの場から離れなければ。サービスの心に、不安が波のように押し寄せる。
「どうして・・・」
「これ以上、私に関わらないで。貴方を・・・愛してしまいそうだから。」
その言葉に、サービスは耳を疑った。かつて想いを寄せていた親友の恋人が、自分のことを愛してしまいそうだから関わるなと。心の奥底に押し込めていたかつて抱いていた、そして未だ色褪せない想いが、堰を切ったかのように溢れ出す。
「どうして・・・私を愛することが出来ない?ジャンを殺したからか?」
答えを聞くのが怖いのに。それでもサービスはその場から逃げ出すことは出来なかった。
「違う。」
は一言言って、口を噤んだ。店内に流れるのは、女性ヴォーカルのストリングスとピアノの静かなバラードだった。静かではあるが、力強さを感じさせるその歌。しかし、二人の耳にはその曲さえ届いていない。
「結果的にジャンは死んだけど・・・不可抗力だということは分かってる。貴方が悪いんじゃない。」
「なら、なぜ・・・」
「怖いの。幸せになるのが。ジャンを差し置いて幸せになるのが申し訳なくて、怖くて・・・」
「・・・」
名前を呼ぶことしか出来なかった。の瞳には、サービスの買ってきた真珠のイヤリングにも負けないほど美しい涙が宿っていたから。そんな彼女を・・・愛しいと思う気持ちは、昔も今も、変わりはない。二人の幸せを願っていた。もう、ジャンが幸せを手に入れることが出来ないのならばせめて、ジャンの愛しただけでも・・・
「君に、少しでも『嬉しい』とか、『幸せ』という感情を取り戻して欲しくて、私はこうやって君のところにプレゼントを持って通っていた。私がもしジャンの立場だったら、君には幸せになって欲しいと思うだろう。ジャンのことを忘れずに、私と二人で幸せになるという道を、選んでくれるつもりはないだろうか・・・」
サービスはテーブルの上に置かれいていたの手をそっと撫でた。その手は、驚くほど冷たくて。思わずその冷え切った手を握り締めた。
「サービス・・・貴方は、私がジャンを忘れられないことを許した上で、そう言ってくれるの?」
「当然だよ。私だって親友を忘れることなんて出来ない。彼の命を奪ってしまった償いといってはなんだけれど、せめて恋人だった君を幸せにしてあげられれば。私はそう思っている。ジャンの大切だったものを全て引き継ぐことは出来ないけれど、君は・・・幸せにしてあげたいと、そう思う。」
「サービス・・・」
サービスの手が、一回りも二回りも小さなの手に握り返されていた。細く伸びた腕に、水滴が零れ落ちる。
「ジャンは・・・許してくれるかしら。貴方を愛することを。」
「私が、君の事を幸せにすることが出来れば許してくれるよ、きっと。」
「サービス・・・」
微かな泣き声が、喫茶店に響いた。
「必ず幸せにしてみせる。ジャンが、心配しないであっちの世界で過ごせるようにね。」
それ以来、は高松の元で働くのをやめた。
世界を飛び回るサービスの傍らには、必ずの姿があった。
彼らの心の中には、今もジャンは生きていた。彼らの幸せを見守る象徴として・・・
永遠に揺らぐことのない絆は、彼らの胸の中に。
微妙すぎです!
キンちゃん以上に好きなサービスおじ様。
好きすぎて、書けないんですよ・・・
なのに無謀にもチャレンジ。
・・・やめときゃよかった。
よく考えたら、「南国少年パプワくん」の最終話にて、
ジャンが復活してガンマ団に戻るじゃないですか?
その時、ヒロインはどうするんですかね・・・