テーブルに無造作に投げ出された新聞。
その新聞の第1面には・・・



−大型新人女優、謎の失踪−



・・・という大きな見出し。
その大型新人女優というのは・・・何を隠そうこの私。
はぁ、と小さな溜息をついて近くのソファに座り、その新聞記事を読む。

主演映画の撮影中に失踪。
いまだ連絡取れず、警察も必死の捜索を・・・
生死が危ぶまれている。
監督と、トラブルか?!
共演の俳優との不倫疑惑を苦にしての失踪か。

あることないこと書き立てているその新聞。
監督とトラブルも起こしていないし、不倫もしていない。
はっきり言って、失踪でもない。むしろこれは・・・
拉致監禁。

「よぉ、。よく眠れたかよ?」

来た。私をここに無理やり連れてきた男。
元ガンマ団特戦部隊隊長、ハーレム。

「ここはどこなの?」

「飛行船の中。ていうか、お前、本当にだったんだな。」

私が手にしていた新聞を取り上げ、まじまじと見る。
彼がなぜ「本当に」といったかというと・・・
私は常にウィッグを被って、ロングヘアだと思わせていた。
今の私は、ウィッグを被っていないから、ショートヘア。さらに眼鏡までかけている。
どこにでもいそうな目立たなそうな女の子である。
そうすれば、まさか本物だってわかる人なんていないと思ったから。

「私のこと、返してくれない?見ての通り、多くの人に迷惑をかけてる。」

「本当に帰りたいのか?この前酒飲みながら言っていたこと、あれが本音なんじゃないのか?」

彼と出会ったのは、映画撮影のロケで訪れていた小さな街のバー。
髪が短くて眼鏡をかけた、女優、とはかけ離れた姿の私に、
誰一人として振り返るものはいなかった。
カウンターで一人でお酒を飲んでいると・・・綺麗な色のカクテルが差し出された。

「私、頼んでないわ。」

「あちらのお客様からです。」

そう言われたので、指された方向を見ると・・・この男がニヤッと笑い、軽く手を上げた。
「ありがとう」というつもりで微笑むと・・・その男は近寄って来た。

「一人で飲むのは寂しいからよ。お互い一人だろ?一緒に飲もうぜ。」

なんとなく、誰かと一緒にいたかった心境だったのか。
私はその申し出を素直に受けて、一緒に飲み始めた。
とりとめのない話をした。家族の話、昔した恋の話、そして・・・仕事の話。
いくつもレギュラーのドラマを抱えていて、挙句の果てに主演の映画・・・
心身ともに疲れ果てていた。期待に押しつぶされそうだった。
話しながら、私は涙を流した。

「お前、名前は?」

。」

「はぁ?!あのか?今一番話題の女優だろ?!」

その大きな声に、慌ててハーレムの口を押さえた。

「お忍びで来てるの。ばれるようなこと、言わないで。」

「悪い・・・」

ハーレムの大声に数人の客が振り返ったが、すぐに先ほどの状態に戻った。
ばれていないことを確認すると、小さく安堵の溜息をつく。
先ほどの余韻のせいで、また涙が零れだす。
その様子を見ていたハーレムが、真剣な目で言った。

「・・・泣くほど辛いならやめちまえ。お前の好きなように生きなきゃ、人生損だろ。」

・・・初めてだった。泣いて辛いと訴えても、皆「頑張れ」としか言わなかった。
でも・・・彼は、「やめていい」と言った。私がだと知ったうえで、
「好きなように生きろ」と言ってくれた。
解釈によってはただの「逃げ」なのかもしれないけど・・・
それでも、彼の言った言葉が心に沁みてきた。
・・・私はハーレムに抱きついて大きな声で泣いた。

「他に何か、やりたいことないのかよ?」

「もう女優をするのは疲れた・・・かと言って、やりたいことも思いつかないわ。」

「んじゃ、とりあえず俺の女になれ。」

「はぁ?!」

その発言に驚いて、立ち上がったときに・・・バランスを崩して倒れて。
頭の打ち所が悪かったらしく気絶してしまって。
気がついたら、この場所にいた。

「これって、拉致監禁ってヤツじゃないの?」

「お前が、もう女優なんて疲れたって言ったんだろ。
だから、俺はそこから逃げる理由を与えてやったまでだぜ。
お前が、『女優、』を演じない限り、ばれないだろう?」

・・・そう、私は、『女優、』を演じていた。
この人の前でなら・・・演じなくてもいいと感じる。
『女優』としてでなく、『一人の女』として生きていける、そう感じた。
どうして彼は、これほどまでに私のことを当然のように理解してくれるんだろう・・・。
私にその答えはわからないけど・・・何も演じなくても理解してくれる彼のそばにいたいと・・・
ただ・・・切に願う自分が胸の中にいるのがわかった・・・。




ハーレム夢です☆
連載でバカなハーレムを書いているので、
たまには格好いいハーレムを書いてみようかと思って(笑)。
女優なんてしたことないのこんなん書いて・・・
何がしたかったのかいまいちよくわからない作品ですね。
ちなみに、ネタは仕事に向かう車の中で思いつきました(爆)。