その手紙には、幼い文字で綴られた愛が詰まっていた・・・。
−寓話。−
私がこの手紙を貰ったのは、高校1年生の春。
相手はどこの誰なのかも知らない、金髪の少年。
その柔らかそうな長い髪を靡かせ、私に手紙を渡したまま
背を向けて走り去ってしまった。
それから、彼には会っていない。
探そうにも、手紙に名前も書いてなかった。
その手紙をいまだに持ち続けているのは・・・
その内容に感動したから。
これほどまでに私のことを愛してくれた人がいる、
それが嬉しくて、ずっと持ち続けている。
私にとっては、お守りのような存在になっていた。
今日から、新しい生活が始まる。
知人の伝で、ガンマ団の事務員として働くことになった。
機械的な建物の中に入っていく。
総帥室に通される。
そこには、黒髪の端正な顔立ちの男性が座っていた。
ガンマ団の総帥、シンタロー。
総帥は、私の顔を見ると、
「あ・・・」
と呟くような声を上げた。
「?なにか?」
「いや・・・そうか・・・アンタだったんだ・・・」
その総帥の言葉の意味を解さず、私は首をかしげる。
「あの・・・どういう意味・・・ですか?」
総帥は、ニヤッと笑い、
「そのうち分かるさ。ま、頑張って働いてくれよな。」
と言った。
頑張るのはもちろん頑張るけど・・・
そんな意味ありげなこと言われたら、気になって気になって仕方ないじゃない!
そんなことを考えながら、総帥室を出て、私のデスクの用意してある
事務室へ案内される。
ほとんどが男性の職場。
廊下を歩く団員たちは、ことごとく私に視線を送ってくる。
は、恥ずかしい・・・
顔を赤らめながら、俯き加減で前を歩く案内をしてくれている団員の
足元ばかりを見つめていた。
ガンマ団の事務室で働き始めて1週間。
特に用事のないものでも、どうやら私のことを一目見ようと
集まってくるらしく、いつもは閑散としている(らしい)事務室は、
何故か賑わっている。
先輩の女の事務員は、
「収まるまでの辛抱よ。」
と笑いながら、言っていた。そういえば、
「女に飢えてる連中ばかりだから、襲われないように気をつけてね」
とも言っていたなぁ・・・。
そんなことを考えながら、与えられた仕事をこなしていく。
「ちゃん、この請求書、グンマ様のところに届けてきて。」
新しく与えられた仕事。
「はい。」
返事をして、請求書と地図を持って事務室を出る。
広大な敷地を誇るガンマ団本部。
新人が地図無しで歩きまわれるほど、単純な作りにはなっていない。
地図を見ながら、一生懸命「グンマ様」のいる研究室を探して歩く。
やっとの思いで見つけた研究室。
「失礼します。グンマ様、いらっしゃいますか?」
部屋の中に語りかける。
「はぁい!!今手が離せないんだ!入ってきてくれる?」
と、奥のほうから声が聞こえた。
その声のほうへ向かって歩いていくと・・・
そこには、大人っぽく成長した例の手紙の少年が顕微鏡を覗いていた。
「あ、貴方は・・・」
思わずそう声を上げてしまった。
「え?」
その声に反応するように、その手紙の彼は顔を私に向けてきた。
「・・・ちゃん・・・」
沈黙が流れる。
やっと、あの手紙の主に会えた。
今まで抱き続けてきた想いを伝えることができる。
そう思った矢先・・・。
「新しく来た事務員て・・・ちゃんだったんだ・・・
なんか・・・仕事やりづらくなっちゃったな・・・」
グンマ様は、苦笑いしながらそう言った。
「?!なんでですか?」
まさかそんなことを言われるとは思ってもいなかった私は、
思わずそう聞き返してしまった。
「だって・・・ちゃん、手紙の返事くれなかったでしょ?
ちゃんと・・・住所も書いたはずなのに・・・要するに、
僕は君にふられた・・・そういうことじゃない。」
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
グンマ様の言っている意味が分からなかった。
だって・・・手紙には、住所どころか名前さえ書いていなかったんだもの。
「手紙には・・・住所も名前も書いてなかったですよ?!」
「え・・・嘘!!」
さっきとは違う意味での沈黙が流れる。
「ほ、本当に?」
「えぇ!ほら!!」
私は、ポケットに入れていた、手紙を取り出してグンマ様に渡した。
「・・・持っててくれたんだ・・・」
そう言いながら、昔自分の書いたであろう手紙を、隅から隅まで見渡す。
「本当だ・・・書いてない・・・。これじゃ、返事のしようもないよね・・・」
また苦笑いをする。
「ねぇ、ちゃん?僕、君以外の女の子好きになったことってないんだ。
ずっと・・・君のことだけが好きなんだよ。今も手紙に書いてある気持ちは
変わらない。もし君さえ良ければ・・・今、返事を聞かせてくれないかな?
手紙を持っててくれたってことは・・・少しは期待していいのかな?」
「グンマ様・・・私が手紙を持ち続けていたのは、
手紙の中の貴方に恋をしたから。いつか会えたら、
気持ちを伝えたかったから・・・。貴方のことが好きです。グンマ様。」
「ちゃん・・・」
グンマ様は、優しく私のことを抱きしめてくれた。
こうして、お互いの恋心は長い年月を経て実った。
そう、まるで寓話のようなお話・・・。
後日。
グンマ様に、初めてガンマ団に来たときの総帥の反応を話したとき。
「あぁ・・・ちゃんのことが好きで好きで仕方なくて、
どうしようもなかったから、シンちゃんに相談したんだよ。
だからちゃんのことを知ってたんだと思うよ。」
そう言われた。このとき、総帥が言った
「そのうち分かるさ。」
と言う言葉の意味をやっと理解したのだった。
グンちゃんです!!
ちょっとビタースウィートな感じで仕上げて見ました。
あんまり甘いと、私はかけないと思うので・・・。
なんというか・・・この話のグンマって、
間抜けですよね・・・。
返事が欲しかったらちゃんと名前を書かんかい!!
って感じですね(笑)。