それは、精一杯の愛情表現・・・
−シャイボーイ。−
時刻は午後5時。終業を告げる音楽が流れる。
ガンマ団の事務員、は、この時間になると必ずどこかから視線を感じる。
辺りを見回しても、その視線の主を見つけることはできない。
ふぅっと小さな溜息をついて、帰宅の準備を始める。
準備をしている間中も、視線を感じ続けている。
その視線の主・・・アラシヤマは、物陰に隠れてが帰るのを
今か今かと待ち続けている。それがアラシヤマの日課。
待ち続けるのはいいが、結局声をかけられず、の背中を見送る。
そんなことがしばらく続いている。
つかず離れずのそんな関係で、アラシヤマは満足していたが、
ここ最近は、それだけでは満足できなくなってきていた。
話したい・・・
そんな気持ちが強くなってきて、今日は並々ならぬ覚悟でこの場にいる。
今日は、にとって特別な日。そう、の誕生日。
は特に用事もないようで、そのまま家に帰ろうとしている。
その様子を見ていたアラシヤマは、気付かれぬように安堵の溜息をついた。
他の男と約束でもしていようものなら、アラシヤマに勝ち目はない。
アラシヤマは自分でそう思っていた。
の支度ができたらしく、バッグを持って出口へと向かう廊下を歩きはじめた。
機械的な見た目の廊下に、こつこつとのパンプスの音が響く。
自分から遠ざかっていくその足音に、意を決したかのようにアラシヤマは物陰から飛び出した。
「はん!!」
声をかけられるなど思ってもいなかったのか、はびっくりした表情で振り返った。
「あ、アラシヤマさん?」
自分でも恥ずかしくなるほど赤面しながら、に近づくアラシヤマ。
その様子を見ていたは、驚いて後ずさりする。
いったいこれから何が起こるのか。そんな不安で、は汗までかき始めた。
「あの・・・はん・・・今日、誕生日ですやろ?これ・・・」
差し出されたアラシヤマの手には、可愛く包装された小さな箱が握られていた。
「・・・私に?」
の問い掛けに、アラシヤマはコクンと頷いた。
「ありがとう・・・」
がその小箱を受け取ると、アラシヤマはその場を逃げるように走り去った。
が、アラシヤマを呼び止めたのも気付かぬほど、アラシヤマは動揺していた。
翌日
いつもと変わらぬ一日が過ぎていった。
そして、午後5時。終業を告げる音楽が鳴り響く。
アラシヤマは今日も、恥ずかしく思いながらも今日も物影からを見つめる。
今日に限って、はなかなか帰ろうとしない。
事務室には、だけが残った。
するとが立ち上がり、入り口のほう・・・アラシヤマのいる方へ向いて、
声をかけてきた。
「アラシヤマさん・・・いるんでしょ?出てきてください・・・」
その声に、アラシヤマは驚いて思わずその場を逃げ出したい衝動に駆られた。
しかし・・・愛しいが自分の名を呼んでくれている。
アラシヤマは、それだけで嬉しかった。
「アラシヤマさん・・・?」
その声に引き摺られるかのように、アラシヤマはの前に姿を現した。
アラシヤマが目にしたもの。それは、昨日に贈ったネックレスが、
の白い艶やかな胸元に揺れている様だった。
「あ・・・つけてくれてはるんどすな・・・嬉しいわ。」
顔を真っ赤にしながら言葉を連ねるアラシヤマ。恥ずかしくてと目を合わせる事などできない。
がアラシヤマに近づく。それを感じたアラシヤマは、視線にが入らぬように
目を逸らす。このまま、を抱きしめてしまいたい衝動に駆られる。
しかし、そんなことをしてに嫌われたくはない。
「すごく気に入りました。ありがとう・・・」
「き、気に入ってくれはってよかったわ・・・」
「誕生日・・・覚えててくれて、すごく嬉しかったです・・・。
あの・・・いつも、私のこと見てましたよね?」
アラシヤマの頭の中は、恥ずかしさで爆発してしまいそうだ。
「すんまへん・・・気ぃ悪くしはったんやったら謝ります!」
「違いますよ・・・」
は、苦笑いを浮かべてアラシヤマを見つめている。
アラシヤマにとってみれば、とこれほどまでに言葉を交わすことができただけで
至上の幸せだった。
「アラシヤマさん、なかなか声をかけてくださらないから・・・
今日は私から。これから、一緒に食事に行きませんか?」
にっこりと笑って、はアラシヤマにそう言った。
当のアラシヤマは、驚いて、
「へ?」
と間抜けな声を出してしまった。
「私・・・ずっとアラシヤマさんとお話してみたかったんです。
昨日のことがきっかけだと思いたいんです。
これからもっと・・・話をしましょう?」
「はん・・・わて・・・わて・・・」
嬉しさのあまり、アラシヤマの瞳からは、涙が零れ落ちた。
箍が外れたように、アラシヤマはのことを抱きしめ、呟いた。
「わて・・・はんのことがずっと好きだったんどす・・・
せやけど・・・はんはわてのことなんて見てくれてへんと思うてた・・・
けど、あんたはわてのことを見てくれてはったんやな・・・
はん・・・好きどす。わての恋人に・・・なってくれはりませんやろか?」
恥ずかしさで失神してしまいそうになりながらも、
アラシヤマは自分の気持ちを言い切った。
「・・・はい。」
アラシヤマの胸の中で、は小さく返事をした。
部屋の中は、物の輪郭しか分からぬくらい暗くなっていた。
アラシヤマの抱いていた願いが、現実となった瞬間だった。
アラシヤマです!!
友人と、「アラシヤマは絶対晩熟!」
と話をしたのを思い出して書いてみました。
晩熟っぽさが出てればいいなぁ・・・。