「貴女の時間を、2週間。私にください。」
貴方が苦しそうな笑顔を浮かべて一言放った言葉が、私の胸の中に刺さった。
私が傍にいても何も変わらなかったであろう事実。
それが、私の胸に重くのしかかる。
−眠りにつく前に−
日本に呼び出されたのは、数日前。
日本の警察が、「Lの伝言で迎えに来ました」と一言。
私だってLに捜査協力したくらいの人間だから、そうやすやすとその言葉を真に受けてついてきたわけじゃない。私が彼らを信じたのは、あまり見慣れないLの直筆の手紙を手渡されたから。文字はあまり見たことがない。けれど、この文字を書いたのはL本人だと。直感的にわかった。
「ようこそ、アリス。」
アリス・・・それが私の偽名。各種データベースへのハッキングの能力と、目をつける場所がほかの人とは変わっているとかで、Lに気に入られ、数度にわたり彼の捜査に協力した。今回のキラ事件も、一緒に捜査してほしいと申し出があったが、私も大きな仕事を抱えていた。終わり次第合流する、とは言ったものの、その仕事が片付いたときにはキラ事件は解決していた。
「久しぶりね、L。」
「・・・皆さん、部屋の外に出てください。アリスと二人きりに。」
「あぁ・・・」
そういって、警察の人は皆外へ出る。白を基調としたあまり生活観を感じさせない部屋に残されたのは、私とLの二人。
「アリス・・・いえ、。私はあと約2週間で死にます。」
「・・・は?」
最初にLが放った言葉はこれだった。
なぜ自分の死期がわかる?
「・・・何か病気にでもかかっているの?」
不安に思ったことを一言問うと、Lは苦しそうな笑顔を浮かべて、キラ事件について語りだした。
「デスノート」という死神のノートによってキラ事件が引き起こされていたという事実。俄かには信じがたい内容ではあったが、彼の言うことはどこにも矛盾などない。完璧すぎて、作り話には到底聞こえなかった。
いつもと変わりのないように取れる飄々とした言葉の流れ。それでも、他の人よりは人の言動を見極める力は持っていると自負している。わずかではあるけれど、Lの言葉の端に、死に対する恐れなのだろうか?言葉の震えを感じた。
「L・・・死ぬのが怖い?」
当たり前のことを問う私。私だって死ぬのは怖いわ。それは当たり前。死を恐れない人間など、悟りを開いた釈迦のようなものだろう。
「自分で覚悟を決めてデスノートに名前を書いたんです、いまさら怖いといっても仕方がありません。死ぬことより怖いのは、悔いを残して死ぬことです。」
Lの空中を泳いでいた目が私の視線に絡みつく。まるで粘りを帯びたように時間はゆっくりと進んでいく。こうしている間にも刻一刻とLの死期は近づいていた。何か言いたげに、Lは少しだけ顔を歪めた。捜査に対しての言動は堂々としているが、それ以外の言動はあまり得意ではないらしい。
「何か悔いを残したことがあるの?L」
私はそれを感じ取って、言葉を促す。そうすると彼はいつも安心したようにその質問に言いたかったことを続けてくれるから。
「、・・・私は貴女を愛しています。この思いを伝えずに死ぬことだけはしたくなかった。」
泣きそうな表情。その表情とその言葉が、私の胸を締め付けた。
どうして・・・どうしてもっと早く言ってくれなかった?
貴方は私を求めてはくれないから・・・そう思って貴方への想いを心の奥底に沈めたのに。
あと2週間という限られた期間しかないのに、いまさらになって私の心の海の底から、沈めたはずの想いを拾い上げてしまうなんて。
あぁ、神様、この世はどうしてこれほどまでに無情なのでしょう。
「エル・・・どうして・・・?どうしてもっと早く言ってくれなかったの・・・?」
少しだけイントネーションの変わった「エル」という響き。この世でいったい何人が知っているのだろう・・・探偵Lの本名。私は彼の本名を呼ぶことを許された数少ない存在。私の存在を求めてくれたエルに、私の心はざわざわと騒ぎ出す。
この世に神がいるのなら、死神につかまれた彼の魂を開放してください。
彼が言った「死神」が実在するのなら、神だって存在するのでしょう?
それなら、どうか彼を私の元に戻して。私は彼と一緒に生きていきたいの・・・
そんな願いが叶えられることのないことなんてわかっている。こんなつまらない嘘を、エルがつくはずがない。
彼の言った言葉はきっと真実なのだろう。
涙も流れない。私の心はただ空虚な得体の知れない感情に支配された。
「貴女の時間を2週間、私にください。」
苦しそうに微笑むエル。
私の時間を2週間ほしいと。たったの2週間。一緒に過ごせるのはたったの2週間。
「エル・・・もっと長く・・・一緒にいたかった」
私の口からポロリと本音が漏れた。
本当ならずっと一緒にいたかった。彼は恋愛感情とか、そういう一切のものを超越した存在だと感じたから、私は彼に想いを伝えることをしなかった。もしも私が彼に想いを伝えていたのなら・・・彼は死にたくないと思ってくれただろうか?もっと他の方法をとってキラを捕まえただろうか?最後まで生きることを望んで、こんな無茶なことをしなかっただろうか?
そんなことを言ったって、もう彼の魂は終焉へのカウントダウンを始めてしまったのだ。私はそれをとめるすべを知らない。爆弾処理のように赤か青かどちらの線を切れば彼が死なないというのなら、喜んで選択しよう。
「それは、私に時間をくれる、と解釈しても?」
「えぇ。エル、私も・・・ずっと貴方のことを愛してた。今も、これからも。」
涙は流れないけれど、私の心はまるで洪水のように涙を流している。人間、あまりに悲しすぎると涙さえ流れないらしい。きっと、悲しくて雨のように流れる涙は、心が悲しくて悲しくて寒さを増すほどに、氷になってしまうのだろう。
「・・・誤算でした。貴女が私を愛してくれていたなど。」
うつむくエル。
「貴女へもっと早く想いを伝えて・・・お互いを想いあっていると確信できていれば・・・死ぬような方法をとらなかったかもしれない。どんなことでも生き残るすべを考えたかもしれない・・・。皮肉なものですね。死ぬことがわかってからお互いの想いが通じ合うなんて・・・。」
エルの手が伸び、私の身体を捕まえる。思っていたよりも骨太なその背中に、私も手を回す。二人の心臓の音が重なり合った気がした・・・。
「エル・・・貴方の命が尽きるまでの私の時間は貴方のもの。そして・・・それから先の命も貴方のものよ。」
「・・・?」
離れた身体・・・エルの怪訝そうな顔。今私の言った言葉の意味を彼はきっと理解してくれる。理解してくれているはず。
私が何をしようとしているか・・・彼にわからないわけがない。数多くの何事件を解決してきたエルに、こんな簡単な内容の言動を理解できないわけがない。
それでも何も言わないのは・・・彼自身が彼の心の奥底でそれを望んでいるから。
・・・私とともに眠りにつくことを。
神よ、このたった2週間という短い時間の中で、私と彼に多くの祝福をあらんことを。
そして、死出の旅路が明るい光で満たされんことを。
彼は、この世界を救った救世主なのだから・・・。
書いちゃったorz
映画版L夢です。
漫画版のLも大好きなんですが、
映画版Lにはまった記念で(笑)。
・・・これからは、ジャンルにとらわれず
書いてみたいなーと思ったものは書いてみようと思います。