「ねぇ、竜平?」

「あ?」

「アンタ、強いヤツの肉が好きって言ってたじゃない?」

「あぁ。」

「ってことは、鶏のササミが好きってこと??」

「・・・は?」



−反則男と屁理屈女−



ここはとあるファミレス。夕飯時でがやがやと賑わっている店内。禁煙席の端のほうに向かい合わせに座って、食事をしている男女。一人はプロボクサー”尾張の竜”こと沢村竜平。
その向かいに座るのは、幼いころから同じ施設で育った者、
ただの「友人」だったのは数ヶ月前までのこと。対幕之内戦で病院送りになった沢村の身を案じて、わざわざ会社を休んでまで看病に来た。後から聞いたら、「婚約者が大怪我負ったからしばらく休みをください」と会社のほうに嘘をついたらしい。
嘘をついてまで看病にきてくれたことが沢村は嬉しくて。そのまま、付き合うようになった。
が、付き合いが長いため、特に付き合い始めて変わったことということも特段ない。唯一変わったことといえば、健全な男女がするようなことをするようになったくらいのものだ。付き合っていないときから、月に1、2度はいっしょに食事していたし、家に遊びに行ったりもしていた。今思えば、世間はきっと何もないなんて思っていなかったに違いない。

ベタ惚れといっても過言ではないと、沢村自身思っている。しかし、沢村にはどうしても気に食わないところがあった。それが、「屁理屈」。

「...何の話だよ。の言ってること、さっぱりわかんねぇよ。」

鶏のササミが好きなのか?と問われた沢村も、何の意図でそんな質問がなされたのかさっぱりわからない。

「だって、強いヤツの肉が好きって言ってたじゃん!『強いヤツの肉は美味い』ってさ。」

「あぁ、言ったよ。」

「強いヤツ・・・竜平の言う強いヤツって、ボクサーのことでしょ?皆筋肉質じゃない!ってことは、鶏のササミみたいなお肉なんだよ?」

「・・・言ってる意味が違うよ。筋肉の解れた状態の殴り具合がさ・・・まるで霜降りの肉みたいに...」

幕之内を殴ったときの感覚を思い出しながら少し恍惚とした表情を浮かべる沢村に、容赦なくの”屁理屈”が襲い掛かる。

「あのね、霜降り肉って、人間で言うと中年太りのおじさんのお腹の肉を食べているようなもんなんだよ?幕之内さんとは似ても似つかないじゃん!」

言われたことに対して反論しようにも、沢村の頭の中に収められている語彙や知識では反論しようがない。
目の前にあるステーキが中年太りのおじさんの肉と同じなのかと思うと、いささか食べることを躊躇いがちになる気がしたが、これはあくまで牛の肉だと言い聞かせて、切った肉片を頬張る沢村。一切れ噛み砕いて飲み込んでから、一言ポツリと。

「・・・屁理屈女」

と言い放った。
そんなことは微塵も気にしていないかのように、はスパゲティにフォークを刺して、くるくると巻き取っている。そう、こんなやり取りはこの二人には日常になってしまっているのだ。
巻き取ったスパゲティを口に運び、噛み砕いて飲み干したが一言。

「そんな屁理屈女にベタ惚れなのはどこのどなたかしら??」

にやりと小悪魔的な笑顔を浮かべる。沢村は、自分の頬が熱くなるのを感じたが、それを気取られないように黙々とステーキを口に運ぶ。

「・・・黙りこくるのは反則じゃないの?」

が口を尖らせる。その表情に弱い沢村は、小さく息をついて鋭い視線をに向けた。鋭いとは言うものの、それはもともとの沢村の目つきのせいであって、決してに対して負の感情を抱いているわけではない。

「・・・俺だよ。」

「え?!」

その返答に、驚いたが目を丸くする。まさか、沢村がそんな反応を返すとは思っていなかったのだろう。巻き取られたスパゲティがプラプラと宙を彷徨っている。

「な、何て言ったの?!」

はっと我に返ったが沢村を問いただす。

「うるせぇな。、さっさと飯食って帰るぞ!」

自分も頬が赤くなっているのがわかるが、これ以上深く追求されないようにガツガツと残っているステーキを口に運ぶ沢村。その様子を見たの唇は、さっきよりも尖っていた。

「...やっぱり反則。」

「...家に帰ったら言ってやるよ。」

「本当に?!!」

「わかったらさっさと食え!」

「うん!」

嬉しそうにスパゲティを口に運ぶを見ている沢村は、自分の口元が緩んでいるのに気が付いた。
自分でもこんな感情を持ち合わせていたのだと...。初めて気が付いた瞬間。

本当はさらさら言う気はなかったが、一言だけ言ってやろう。

が好きだって。

沢村夢第2弾☆
タイトルの「反則男と屁理屈女」って、
「鮫肌男と桃尻女」っていう映画を文字ったものです。
...タイトルが印象的だっただけで、
内容覚えてないんですよね...
DVD借りてきてみようかな...