いつもは大きく見える彼が、小さく見えた。

・・・俺はこれからどうすればいい?」

いつもは見せない、弱気な姿に、何も声をかけることが出来なくて・・・。



−私のために−



対間柴戦で大怪我を負ったにも拘らず、病院にも行かずにバイクで地元まで帰ろうとして途中で交通事故を起こして。
今現在、病院に収容されている沢村。

恋人であるは、比較的時間に余裕があり、会社に出勤しなければ出来ない仕事でもない仕事に就いていた。身寄りのない沢村の看病をすべく、病院にパソコンを持ち込んでつきっきりで看病と仕事に精を出していた。

窓からオレンジ色の夕日が差し込む中で、黙って外を眺めている沢村を横目でチラリと盗み見て、またパソコンのモニターに視線を落とす

「なぁ。」

弱々しい声で、沢村が声をかけてきた。それに気が付いたは、かけていたメガネを外して、沢村のほうへ向き直る。

「何?」

・・・俺はこれからどうすればいい?」

「・・・・・・」

これから・・・きっと沢村が言わんとしているのは、ボクサーを諦めざるをえなくなった自分は、何を生きがいに生きていけばいいのか、ということだろう。それが痛いほどわかるが、それに対してどう答えればいいか、の思考回路はフル回転で答えを探しているが、そう簡単に見つかるものでもなくて。

「・・・ボクシングをすることが生きがいだと・・・思い始めてたのによ。」

ポツリポツリと沢村は言葉を紡ぐ。

「竜平・・・」

「はっ、今まで散々悪いことしてきたからな。神様は俺に生きがいさえ与えてくれねぇつもりらしい。」

自嘲的なその台詞は、の胸に棘のよう突き刺さる。

「そんなこと・・・」

ひと言、そう言うことしか出来なかった。自分のボキャブラリーの貧困さにほとほと愛想が尽きる。もっとたくさんの言葉を知っていれば、きっと沢村の求めている言葉を探し当てることだって出来るのに。

「そんなこと?生きがいだと思い始めていたものを奪われたんだぞ?そう思ったって仕方ねぇじゃねぇか!」

沢村の声のトーンが上がる。激しく体を翻そうとしたが、自らの体の痛みがそれを許さない。苦痛に沢村の顔が歪む。

「俺は・・・生きてねぇほうが世の中のためかも知れねぇな。」

「竜平!滅多なこと言わないで!」

「俺は人を殴ることを気持ちいいと思うようなヤツだぞ?」

「じゃあ、私のために人を殴らないで!」

「な・・・」

少しだけ沈黙が流れた。咄嗟に放った言葉だったが、それが、沢村が心の奥で求めている言葉のような気がして。さらに言葉を続ける

「私はこれからもずっと竜平のそばにいる。それがどういうことかわかるよね?」

「・・・あぁ。」

”結婚”という具体的な言葉は出なくても、二人ともそのことは考えていた。

「私を犯罪者の妻にしないで。私達に子供が出来たら、子供が『自分のお父さんは、日本チャンピオンにまで挑んだ強いボクサーだったんだ』って自慢できるような父親になって。」

・・・」

沢村の目がさっきよりも潤んでいるように見るのは、光の加減だろうか。は深呼吸をして気持ちを落ち着けて、毛布を握り締めている沢村の手に自分の手を添えた。

「・・・私と、生まれてくる子供の生活を守ることを生きがいにしてちょうだい?」

・・・わかったよ。」

二つの影が寄り添い、唇が重なった。

人を殴ることを生きがいとした男は、自分の愛した女と、これから生まれてくる子供のためを守るのを生きがいとすることを心の中で誓った・・・。



・・・余談

「さっきから子供の話ばっかしてっけど、出来たのか?」

「まだちゃんと調べてないけど。出来たかも?」

「まだ間に合う。車椅子持って来い!!今すぐ産婦人科行くぞ!!」

「えぇぇ?!」

沢村夢ー。いやぁ、対一歩より先に対間柴を読んだ私ですが(おい)、
対間柴のときはそれほど好きでもなかったのに、
対一歩読んではまった。
間柴と同じくらい好き・・・vV
ちょっとシリアスすぎかなぁ・・・

にしても短いなぁ・・・。製作時間40分(爆)。