「ねー、イチローちゃん、知ってる?」

「・・・何が?」

「イトコ同士って、結婚できるんだってー。」

「ふーん。」

ね、イチローちゃんのお嫁さんになりたーい!」

「・・・いいよ。」



−Thanks Friday−



PiPiPiPiPiPiPiPiPi・・・

けたたましい目覚ましの音で目が覚めた。視点の定まらないまま目覚ましを探して手を伸ばし、そのけたたましい音を消した。チラリと時計に目をやると、朝の6時半。
宮田一郎の従兄妹、はボーっと白い天井を眺める。なぜ、子供の頃の夢を見たのか・・・しかも、「お嫁さんになりたーい!」とか言っている、かなり恥ずかしい内容の・・・。
頬が熱くなるような感覚を覚えながらよく回らない頭で必死で考えて・・・

あぁ、そうだ。何年も会っていなかった従兄妹の一郎に昨日、街でばったり会って。
減量もないみたいだし、飲みに行こうという話になって。
そのまま飲み屋に行って、子供の頃の話に花を咲かせた。もっとも、しゃべり続けていたのはの方だったが。

そこまで考えたところで、スヌーズ機能を止めるのをすっかり忘れていた目覚ましが、再びけたたましい音で起きろと催促を始めた。

「もう、わかったわよ・・・」

重い体を起こしながら、今度はしっかりスヌーズ機能も停止させた。

「えっと・・・今日は・・・」

日課となっている、枕元に置いてある手帳の今日のページを開いた。びっしり予定が書き込んである。

「9時から・・・アルバムのレコーディング?」

は、最近ようやく売れてきたバンドのヴォーカルだ。しかし、それは今現在の話であって、来週から放送される売れっ子の新人俳優が初主演する連続ドラマの主題歌にタイアップが決まっているため、あと少しすればもっと有名になるに違いない。

「9時って・・・早すぎだから。」

ブツブツと文句を言いながら、朝食の準備を始めようとキッチンへ立ったとき。携帯電話から呼び出しがかかる。
急いでその携帯の表示を見たの心臓は、少しだけ早くなった。

"いちろう"

昨日お互いの携帯番号を交換して、まさかこんなに朝早くにかかってくるなんて思ってもいなかった。

「もしもし?」

か?』

「おはよう。どうしたの?」

『テレビ見てるか?』

「は?」

『つけろ!今すぐ!!』

宮田に促されるまま、はテレビのスイッチを入れた。そこに映し出されたのは・・・朝のワイドショーのような報道番組。

『○○というバンドのヴォーカル、これは、□□さん主演の来週から放送の連続ドラマのタイアップの決まっているバンドなんですが、そのヴォーカルのさんと、プロボクサーの東洋太平洋チャンピオン、宮田一郎さんの熱愛が発覚したと、フ○イデーが報じました。』

「なっ?!!!」

『・・・見たか?』

「み、見たけど・・・何、どういうこと?!」

『今夜、会えないか?俺の家に来いよ。これからどうすればいいか、話し合わなきゃ。』

特別話し合うことなんてないとは思ったがそうもいかなそうなので、とりあえずその話を受け、電話を切った。
慌ててカーテンをの隙間から外を見ると、ちらほらとマスコミ関係らしき人物が見える。
どうしようか考えていると、マネージャーから、迎えにいくという電話が来た。

その日一日、マネージャーをはじめ、事務所の社長、バンドのメンバーと、皆から質問攻めにあったのは言うまでもない・・・

レコーディングも終了し、とりあえず裏口から出た後、宮田の家に行こうにもどうすればいいか考えあぐねているの目に映ったのは、見慣れた人物の顔だった。

「お、おじさん!」

「やあ、。大きくなったな。」

「ごめんなさい、迷惑かけて...」

「構わんよ。こっちに車を止めてある。一郎に頼まれて迎えに来たんだ。行こう。」

「はい。」

宮田の父の後ろについて俯き加減で車へと向かう。幸いマスコミ関係に見つからずに車まで辿り着けた。駐車場を出た車は、レコーディングスタジオの前の記者たちを尻目に、どんどん遠ざかっていった。

どれくらいの時間車に揺られていたかは定かではないが、気がつくと宮田宅に到着していた。
促されるまま家の中へと入ると、リビングには宮田がいた。その目の前には、今日何度も目にした雑誌が無造作に放り投げられている。

「一郎・・・」

「・・・部屋に行くか。」

父は気を遣ってか席をはずしていたが安心できないらしく、宮田は自分の部屋へとを誘う。
特別拒否する理由もなく、は一緒に部屋へと向かった。

こざっぱりとした、あまり物のない部屋。あるのはダンベルや、なにやら筋力アップに使うのではないかという器具類だけだった。

「・・・どうする、これ。」

中央に置かれていた小さなガラスのテーブルに放り投げられたのは、他でもない例の週刊誌。
それに掲載されている写真は、まるで二人がキスしているように見える・・・が、本当はキスなどしていない。
宮田の目の横に、睫毛が抜けてついていたのを発見し、がとっていたのを撮影されたらしい。

「どうって・・・私達が従兄妹だって言う事実に変わりはないんだし。事務所を通して、マスコミ各社に言ってもらうしかないんじゃないかな。何も関係ない、私達は従兄妹同士だって。」

少しだけ、宮田の顔が歪んだように見えた。

「俺は・・・」

宮田が言葉に詰まった。何かを言おうとして、またその言葉を飲み込む。

「なぁに?」

は知っていた。こうやって言葉を促してあげないと、宮田は大事なことを言わないで終わってしまうことが多いことを。

「俺は・・・このままでもいい・・・と思う。」

「え?」

「昨日・・・偶然だけどに会えて嬉しかった。何年も会っていなかったけど。最後に会ったのは中学生のときだったけど・・・俺はその時から、お前のことが気になってた。今まで他の女と付き合ったことがないって言えば嘘になる。だけど、誰とも長続きしなかった。自然とお前に重ねて・・・お前ならこんな時なんていうだろうとか、お前ならこういう反応するだろうな、とか。」

目を見ず、少し顔を赤らめながらいつもより饒舌に言葉をつむぐ宮田。それを、視線をそらさずに一文字も聞き逃さないように言葉を拾う

「・・・それで、一郎はどうしたいの?私の今後は、貴方にかかってる。」

考えながら言葉を放つ宮田に、ポツリと結論を求める言葉を囁いた。それはまるで魔法のように。普段なら素直になれない宮田の口から、ひと言。

「・・・がずっと好きだった。この記事、本当にしてしまってもいいと思ってる。俺と・・・付き合ってくれ。」

は、ふと、今朝見た夢のことを思い出し、ふっと笑い声を上げた。怪訝そうな、心配そうな顔でみていた宮田に、今朝の夢のことを話すと、見る見るうちに顔が赤くなっていく。

「覚えてる?」

「覚えてねぇよ。」

「あの時言ったこと、本当になるかもねー。」

にっこりと笑いかけたのその言葉に、宮田は驚いたような顔を見せる。

「それって・・・」

「これからよろしく。一郎?」




その頃の父・・・
ドアの外で聞き耳を立てていたという・・・(苦笑)。

初一歩は宮田夢☆
でも、きっと、増えるのは間柴とか
沢村とかなんだろうなぁ・・・