目覚める前の私の記憶は、体に走る激痛と、救急車の音。
そして、救急隊員が必死で大丈夫かと声をかけていること。
そこまでで私の記憶は一度途切れていた。



−病院ではお静かに!−



目を開けると、目の前には真っ白な天井。視線だけをめぐらすと、ありとあらゆる計器が並んでいる。は、自分の名前が書かれた枕元に引っかかっているプレートを見ながらゆっくりと自分に起きたことを思い出していた。
そう、確か、飛び出してきた車に撥ねられて、そのまま救急車で運ばれている途中に意識を手放して。
気がついたら病院のベッドの上。

はぁ、せっかくのデートだったのに・・・。了さん、怒ってるかなぁ・・・

怪我をして運ばれてきた人間にしては悠長なことを考えているこの女は、何を隠そう、プロボクサーの「死神」の異名を持つ間柴了の恋人だったりする。

ボーっと天井を見つめていると、入口が開いて看護師が一人入ってきた。
肩の辺りで髪を切りそろえた、可愛らしい雰囲気の看護師。

「目が覚めましたね。大丈夫ですか?」

「ん、痛いけど大丈夫です。」

その看護師は、手際よく脈や呼吸、体温などを測っていく。

「私、さんの担当の、間柴久美と申します。何か御用があるときは、私がいるときは私を呼んでくださいね。」

にっこり笑うその看護師に、好感を覚えた。ただ一点、どうしても気になる点が。

「あの、苗字、間柴さん?」

「はい。珍しい苗字でしょう?」

そう、珍しい苗字なのだ。しかし、はもう1人、間柴という人物を知っている。と、ずんずんと聞き覚えのある足音が近づいてくるのが聞こえた。その足音に、看護師の間柴も耳をそばだてている様だ。

ガン!!

勢いよく病室の扉が開かれた。そこを見やると、案の定、恋人の間柴了が立っていた。ちらりと看護師の間柴に目をやると、驚いた顔をしていた。この驚きは、果たして扉を開けた音に驚いたのか、それともその場所に立っている人物に驚いているのか。どっちとも取れる。

ずかずかとベッドの近くまで大股で寄ってきた間柴。ベッドに横たわるを覗き込む。その視線が恥ずかしくて、は布団で顔を隠そうとするが、それを恋人は許さない。

「大丈夫なのか?!おい!、答えろよ!」

「ちょ、お兄ちゃん!病院なんだから静かにして!」

「あぁ?黙って・・・ろ・・・って、久美じゃねぇか!」

あぁ、やっぱり・・・

「間柴さん、了さんの妹さん?」

苦笑いを浮かべながら、は久美のほうに目をやった。

「はい、そうですけど・・・あの、兄とはどういう・・・」

久美の表情に困惑の色が浮かぶ。答えを求めるように久美の視線は兄の方に向くが、当の間柴了は、顔を赤くして視線をそらしている。そんな仕草がたまらなく可愛いは、くすくすと笑い声を上げる。

「お付き合いさせていただいてます。三ヶ月くらいになるかな。」

「お、お兄ちゃんの彼女なんですか?!」

「お前、今病院だから静かにしろっていったばっかりじゃねぇかよ。」

「あ・・・;え、でも、本当に??」

「えぇ。本当よ。まさかこんな形で顔合わせになるなんて思ってもいなかったけれど。」

決まりの悪そうな顔をする。その表情が、間柴の心に不安が頭をもたげるための材料になるなんて、は微塵も思っていなかった。

「おい、久美、状態はどうなんだよ?」

少し険しい表情になった間柴の顔を見て、はしまったと思った。今の自分の表情は、痛がっているようにでも見えたのだろうか?

「ん、大腿骨の骨折。後は特に。命に別状も無いから、しばらく入院すれば大丈夫よ。」

「そうか。」

間柴の表情が少しだけ緩む。周りからは無表情だと思われているが、決してそうではない。普通の人より、ちょっとだけ顔の筋肉が硬いだけだとは思っている。よく見れば、間柴だってそれなりに表情というものがある。付き合って、いろんな表情が見れるようになったのが、にとっては一番の喜びだった。

「それじゃ、私は。まだ仕事がありますから」

そういって、久美は病室を後にした。
間柴は、用意してある丸椅子に腰掛ける。何もいわずにのことを見つめる間柴。その無言の威圧とも取れる視線に、いささか緊張を覚える

「あ、あの、どうかした?」

頬を掻きながら、困った顔で笑いかける。布団から少しだけ出ているその手をグイッと引っ張り出して、間柴は無言でその手を握った。繋がれた手に額をくっつける。

「・・・あんま心配させんじゃねぇよ。俺はもう、お前のいねぇ人生なんて考えられねぇんだからよ。」

少しだけ、握った手に力が篭もる。その力に、本当に心配されていたということに気づかされる。

「ごめんなさい、了さん。」

握られた手に、も少しだけ力を強くした。
「お前のいない人生なんて考えられない」
いつもはそんなことを言ってくれるような人ではないから、その言葉がとても嬉しくて。

「・・・たまに入院してみるのもいいもんね」

とひとりごちてみた。しかしそこは、間柴。聞き逃すはずも無い。

「あぁ?!何言ってやがる!しょっちゅうこんなことされちゃ俺の精神が磨り減るぜ。ただでさえ久美と幕之内のことで精神すり減らしてるっつうのに、お前にしょっちゅう怪我されたら、俺の精神の方がもたねぇよ。」

と、とたんに不機嫌そうな顔になる。
・・・精神をすり減らすのは、妹のことじゃなくて、私のことだけにして欲しいのになぁ・・・
なんて、が心の中で思ったことは、当の間柴は知らないのであった。

間柴夢☆
うん、無理(無駄に明るく)☆
思い入れが無いから書けないんじゃなく、
思い入れが強すぎて書けないんです。
書いても納得できないんです!好きすぎて!!
なんか、間柴夢というよりは間柴家夢でしたね。
久美ちゃん出張りすぎ!!