私の高校のときの後輩は今、プロボクサーになっている。
実直で、恐れることを知らないその後輩は曲がったことが大嫌いで、いつも何かしらピンチに立たされる私を庇ってくれたし、部活で頑張っている私を応援してくれた。だから私は、彼のことを応援すると心に決めたの。
−アイツは可愛い年下の男の子−
ひとつ年下の後輩、星洋行。彼がボクサーになったと聞いたのは、つい先日だった。
高校を卒業してから、街の中であってもお互いに会釈をするだけの仲にはなっていたけれど、それでも、私は星くんに好感を持っていた。彼には高校のとき、本当にお世話になったと思っている。
部活でキャプテンをしていた私は、キャプテンならではの悩みが絶えなかった。そんな悩みを、聞きだしてくれるのが星くんだった。星くんには何でも話せた。今思うと、なぜ彼にここまで心を許していたのか自分でもわからないけれど、でも、彼を信用していたのは事実で。
彼は私よりも年下なのに、私よりもまともな答えを返してくれる。それが、当時の私をどれだけ救ってくれたか知れない。
だから、星くんがプロボクサーになったことを聞いて、私はどんなことがあっても、影からであっても彼を応援して行こうと思った。
一度応援していることを伝えようと思って、星くんの実家を訪れた。
生憎、星くんはジムにいっているということで留守だった。仕方なく帰ろうと星くんの家の門に差し掛かった時。目の前が真っ暗になり、まるで壁に激突したかのような衝撃に襲われ、そのまま尻餅をついてしまった。
「いったぁ・・・」
「大丈夫ですか?!」
すかさず手を差し伸べてくれたのは、他の誰でもない、星くんだった。
「あ・・・お帰り。」
星くんの手をとって引っ張り起こしてもらう。
「さん、どうかしたんですか?家になんか用やったんですか?」
「んー、星くんの家に用やったんやなくて、星くんに用があったんやけど。」
「自分に、ですか?」
・・・星くんの頬に、ふと朱が混じったように見えたのは、私の見間違いだろうか?
「あ、とにかく、上がってください。お茶ぐらい出しますよって。」
「気ぃ遣わんでえぇよ。ちょこっと話したかっただけやし。」
そんな話をしていると、手にピリピリという痛みを感じた。手を見てみると、あちらこちら擦りむいて血が滲んでいる。さっき尻餅をついたときに、手を下についたのだろう。
「ちょ、さん、怪我しとるやないですか!手当てせんと!!」
「これぐらい平気やて。」
「ダメです!はよ中に!」
星くんは、私の手を握ってそのまま中に引きずり込んだ。とりあえず洗面所で傷口を洗ってから、星くんの部屋に通される。星くんは救急箱を取ってくると部屋から出て行った。周りを見回すと、名前は知らないけれど、ボクサーのポスターが一枚。それと、筋トレに使うであろう、鉄アレイが転がっている。あとは、ボクシングに関する雑誌が散らばっていて、いかにも男の子の部屋、という感じの部屋だった。
ふすまが開いて、星くんが救急箱を持って入ってきた。
「手ぇ、出してください。消毒しますよって。」
「なんや、ごめんね?迷惑かけてしもて。」
「そんなこと無いです。さんのことやったら、自分、迷惑やなんて思いませんから。」
・・・私のことだったら?
手馴れた手つきで消毒を済ませ、なにやら軟膏を塗ってくれる。その手つきは無骨ではあるけど、まるで壊れ物でも扱うような優しい手つき。そんな、壊れるようなやわな人間じゃないと言いたくなるほど、優しく軟膏を塗るその手を、じっと見つめていた。
軟膏を塗り終わった星くんが、それを救急箱にしまう。
「ありがとう。」
「・・・さん!」
星くんが急に姿勢を正したかと思うと、そのまま手をついて頭を下げた。そう、彼は急に「土下座」したのだ。
「な、何?!どないしたん?!!」
いきなり土下座された私は、意味がわからず思わず尋ねてしまう。星くん、私に土下座するようなことした覚えが無いんだけれど・・・
「嫁入り前の大事な体に傷を付けたんは自分です。せやから、自分が責任もってさんのこと嫁に貰いますよって、安心してください!」
「は、はい?!」
何を言っているんだ、彼は!え、何?私に怪我させたから、嫁に貰うって?!
「ちょ、待って、これくらい傷つけたうちに入らんし!」
思わず突っ込みを入れてしまうのは、間違いなく関西人の性だろう。
「それとも、自分みたいな男は嫌ですか?!」
「え、そんな、嫌ではない・・・けど・・・」
あ、今、私顔真っ赤だ。何だろう、この動悸。・・・私、もしかして、前から星くんのことが好きだった?
「じ、順番が逆なんやないの?」
「え・・・」
「普通やったら、『付き合ってください』が最初やろ?」
「あ・・・」
星くんの顔も真っ赤に染まる。やっと、自分がなんか変なことを言っていることに気がついたらしい。どうしよう、可愛い・・・!
「すいません、自分、さんのこと守るて、自分の中で誓い立てとって・・・。そんな自分がさんに怪我させたと思うといてもたっていられんかったんです。」
「私のことを守る・・・?」
「さん、自分は、高校のときからさんのことを好いとりました。自分と付き合ってもらえませんか?」
そのまっすぐな目に捉えられてしまったら、もうそこから逃げ出すことなどかなわない。返事を待ってふるふると震えている星くんがあまりに可愛くて。返事を先延ばしにしてしまおうかと思ったけれど、私の心ももう待てないところまできていた。
高校以来感じたことのない胸の高鳴り。あぁ、私、星くんのことが好きだったんだ・・・。
「さん・・・返事、もらえんですか?」
私なんかよりも体が大きいのに、その縋るような目は仔犬を思わせるものがある。
「よろしく。」
そう一言言った後の、星くんの嬉しそうな顔は、一生忘れることなんて出来ないだろうな・・・。
いつか、私たちの付き合いの始まりはこんなだったね、なんて、思い出話できる日が来るのかな・・・?
星くん夢!
「自分は」って言う一人称の人、今まで書いたことなかったんで
書いてみたくて書いちゃった!ていうか、可愛くないですか?彼。
まぁ、どのキャラよりもすさまじいやられキャラでしたけど。
なんか、星くんは、キスすれば子供が出来るとか
思ってるくらいでいいよ・・・!
「結婚するまでエッチはしません!」くらいの硬派な感じで(笑)。