「死んでも奴を仕留めるつもりだった。けどよ・・・お前の顔を思い浮かべるだけで
死ぬのが怖くなった。だから、会えばますます死ぬのが怖くなると・・・・」

広い道場に沈黙が流れた。は初めて見るリュウの弱気な姿に何も言えずにいた。
今までは強くて、弱点などない漢のように思っていた。
弱点といわれて思いつくのは、弟のタツくらいであった。
死など恐れず、勇敢に敵に立ち向かう漢だと思っていた。
不意に見せた弱さが、の中でリュウに対する愛しさを倍増させた。

しかし、強情ながここまで来て、今更退けるわけがない。

「そんな言い訳、誰が信じると思う?私のことを本気で愛しているなら・・・
私に命を掛けられるくらい愛しているなら、この場で腹でも切って見せなさいよ!」

自分でも思っていない言葉が口をついて出る。そんなこと、心にも思っていないのに・・・

「・・・わかった。」

リュウは一言だけそういうと、壁に立てかけてあった刀を自分の腹に突きたてようとする。
切っ先が腹に触れようとした刹那、

「やめて!」

の鋭い声がリュウの動きを制した。
刀は、リュウの腹に突き刺さる寸前で止まっていた。

「・・・バカじゃないの?」

の頬に、涙が伝う。
涙は白い頬を流れ落ち、服を濡らしていく。

「あんた、女に腹を切れって言われて切るような漢だったの?」

本当は嬉しいのに、そんなことを伺わせないような言葉しか口にすることが出来ない、
悲しい性・・・。

「海人界へ行って、改めてお前の存在が俺の中でどれだけ大きいか
分かった。お前が許してくれないなら、俺は生きてても意味はないのさね・・・」

悲しそうな、でも真剣な瞳でに自分の気持ちを淡々と伝えるリュウ。
しばしの沈黙の後に先に口を開いたのはだった。

「・・・だったら、これだけは守って!守れなければ、一生貴方のことを許さない!」

鋭くリュウを睨みつける

「何だ?」

内心何を言われるかドキドキしながらリュウはに問うた。
はポロポロと真珠のような涙を流しながらリュウに言った。

「勝手に居なくならないで・・・私の傍から消えないで。
どうしても行かなきゃならないときは・・・必ず戻ってきて!」

そこまで口にすると、の身体はリュウの腕の中に収められた。
力を込めれば折れてしまいそうなほど細い肩を優しく抱きしめる。

「分かった。お前に嫌だって言われたって、お前の傍から離れるつもりはねぇ。
俺が生きるも死ぬも、お前の行動次第だ。俺にとって、
お前の傍が桃源郷なのさね。お前の傍が一番居心地がいい・・・」

深く優しいキスを何度もの唇に落とす。それを静かに受け入れる

きっと二人が共に生きていける世界こそ、2人にとっての桃源郷なのだろう・・・。
2人が離れ離れにならない限り、二人の桃源郷が滅びることはない。


はい、終わりました・・・。
やっぱり、結構な長さですね。

メルマガで配信した夢小説は、
やはりどうしてもセリフが多いようです・・・。