ディーノは優しい。一度は殺そうとした私を快く受け入れてくれた。
スクアーロの看病をするために・・・私は今、キャバッローネが根城にしているホテルに居る。
クイーンサイズのベッドに横たわる銀色の髪の男。
胸の辺りを見ると微かに上下する。生きていることを実感する。
どうしてあの男・・・ザンザスは、敗北を知った者ほど強くなれるということを理解しようともせず、切り捨てるのだろう・・・。
−La ferita lacera di una dea e pioggia della gioia.−
傷が熱を持ち、身体中が燃えるように火照っている。額に手を当てると、包帯の上からなのに熱を持っているのを感じられる。
金に物を言わせ、ホテルに持ち込まれた延命装置。ホテルにも口止め料は払ってある。
ここにスクアーロが居ることがばれれば、ザンザスに何をされるかわかったものじゃない。今先決なのは、スクアーロの傷の手当もだが、彼が生きているという事実を隠すこと。
ルームサービスで氷を持ってくるように頼み、氷嚢を作ってスクアーロの身体に押し当てる。傷口を避けて。
やはり身体が痛むのだろう。氷の角が触れると痛みに眉間に皺を寄せる。それでも、気がつく気配は無かった。
何時間経っただろう。外に行っていたディーノが戻ってきた。
「今夜は霧の守護者の戦いだ。」
「知るか・・・そんなこと。私はザンザスが勝たなければそれでいい。スクアーロの命を簡単に切り捨てた、あの男がボスにならなければそれでいい!!」
キッと振り返ったの目には涙が浮かんでいた。
スクアーロのために涙を浮かべる・・・は、自分のために涙を浮かべてくれるだろうか・・・。
ディーノの心はきりきりと痛みを増す。
「もしザンザスが10代目になるようなことがあったら・・・アタシは・・・カンツォーネは同盟を抜ける。」
ベッドの脇に座り、長いスクアーロの髪に指を絡める。
その細い指。人を殺めるにはあまりにか細いその指。実際何人の命を奪ってきたかは彼女と神しか知りえない事実。
それでも、マフィアのボスとして君臨しているのだから、ある程度のことはしてきたのだろう。
「それがどういうことか・・・、利口なお前ならわかっているだろう?」
「わかってる!わかってるから敢えて抜けるって言っているんだ。簡単に命を切り捨てる奴は、同盟のファミリーだって簡単に切り捨てる。そんな奴の元に集えると思っているの?ディーノ。」
視線がディーノを掴む。意志の強い瞳。が言っていることはもっともなことだ。
損得勘定で動くあの男は、メリットがないと判断すれば容赦なく切り捨てる。そんな奴だ。
「だが・・・」
「う゛お゛ぉい、うるせぇぞぉ・・・静かに・・・しろ」
反論をしようとしたディーノ、それを迎え撃とうとしていたの耳に、聞き慣れた・・・けれどとても苦しそうな声が聞こえた。
肩を激しく上下させて、ベッドに横たわる男は立ち尽すディーノ、ベッドの縁に座るを見上げている。
「スク・・・アーロ・・・!」
が顔を覆った。肩が揺れる。・・・泣いている。
スクアーロが死神から開放されて戻ってきたことを喜ぶ涙。
ディーノの胸がズキズキと痛む。自分がスクアーロと同じ状況になったときに、果たしては泣いてくれるだろうか。否、スクアーロのために涙を流すのは、が彼を愛しているから。
「死に損なったか・・・」
ポロリとスクアーロの口からこぼれた言葉。
それにピクリと反応するをディーノは見逃さなかった。
「?」
訝しそうににディーノが語りかけると、は服の袖で涙をぬぐいベッドから立ち上がる。くるりとベッドのほうに向き直ったの表情は、怒りに満ちていた。
「ぅおい、どうした、・・・!ぐぁ!!」
がスクアーロにのしかかり、その手が傷口を押さえつけた。まるでひしゃげた蛙のように、スクアーロは苦痛の声を上げる。
「!!」
慌てて止めに入るディーノ。
「死に損なっただって?よくそんなことが言える!直接助けたのはディーノだけど・・・アタシも命をかけて貴方のことを助けに行った。命を賭けたのはディーノも同じ。その二人の前でよくもそんなことをぬけぬけと・・・!」
「ぐあぁあ!!!」
ますます力を込める。だが、ディーノは制しようとした手を引っ込めた。
命を賭けたのはディーノも同じ・・・
立場を省みず助けに向かったことをはちゃんと見ていてくれた。
昨日の自分に銃口を向けてスクアーロを受け取ろうとしたのは、スクアーロを愛しているからという理由もあるのだろうが、ディーノにあらぬ疑いがかかることを避けさせようとする彼女なりの優しさだったのだ。淡い期待が頭を擡げる。
「っく・・・やめろぉ、・・・!」
苦痛に歪むスクアーロの頬に、ポタポタと水滴が落ちる。
ハッとして見上げるスクアーロ。少しずつ力の弱まる手。傷を押さえつけられ、その痛みが全身を駆け巡っているはずなのに、それよりも心のほうが激痛に見舞われている。
「私は・・・貴方が生きていてくれて嬉しかったのに・・・死に損なったなんて言わないで・・・」
いつもの毅然とした口調ではなく、女らしさを感じるイントネーション。
「悪かった・・・」
必死で腕を上げ頭を撫でるスクアーロ。
そのままくず折れるようにスクアーロの胸に顔をうずめる。
・・・そんな光景を見たくなくて。
ディーノは複雑な表情のままベッドルームを後にした。
第2弾・・・
何なんだ、これは。
ディーノ片思い夢?!
どういう風に分類していいかわかりません、先生!!
しかもまだ続きそうな予感(爆)。
La ferita lacera di una dea e pioggia della gioia.:女神の涙は喜びの雨