「ちょ、おい、キャバッローネのドジボス!!!」

「んな?!」

その言葉に驚いて(というか不快感を覚えて)声のする方を振り返った。
そこには・・・栗色の髪をひっつめたように高い位置でポニーテールをして、男物の黒いスーツに身を包んだ小柄な女が仁王立ちしていた。

「・・・。」

「その手に持ってる男をアタシによこしな!」

銃口が俺を捕らえた。



−La dea di aiuto, la dea della distruzione−



「何のマネだ、カンツォーネファミリー8代目、。」

少し冷ややかな目で女を睨み付ける。
カンツォーネファミリー8代目ボス 。ボンゴレと同盟を結ぶファミリーのひとつ。
ごく小さいファミリーだが、経営力、経済力に優れ、特にこの8代目で、カンツォーネの資産は倍以上に膨らんだといわれるほどのやり手の年若い女のボス。そして、ディーノ、スクアーロとは学生時代の級友だ。銃口を向けられているからといって、別に関係が険悪なわけではない。
学生時代からディーノとスクアーロとは仲がいい。
右手に構えた拳銃。左手にはディーノのものとは形状が異なる鞭。乗馬鞭を持ち、拳銃を構えたその女は、「その手に持っている男」・・・スクアーロを自分によこせと言い出した。

「大体にして、お前なんでここに居るんだ。イタリアの方はいいのか。」

「アタシの部下は皆優秀だからな。おい、いいからスクアーロをアタシにだまってよこしな。」

カチリ。
リボルバー式の拳銃の玉が装填された音がする。
の人となりをわかっている。本気で撃つ気は無いだろう。撃ったにしても、わざと当たらないようにするはずだ。

「・・・スクアーロを連れてってどうする気だ。」

「看病する。アタシが。何のために鞭まで持ち出したと思ってる。」

彼女の持つ鞭は、ディーノのそれとは使い方が異なる。彼女はその鞭でどんな動物も操れる。温厚な犬を凶暴な狼のように変えることも、暴れ狂うなライオンを飼い猫のようにすることも。もちろん、獲物を前にした鮫が餌に見向きもしないようにする事だって可能だ。
きっとは、ずっとジャッポーネに居てリング争奪戦の様子を気付かれないように覗いていたのだろう。普段使いもしない動物を操る鞭を持ち出したのは、凶暴な海洋生物が放たれたフィールドに落ちる者を救おうとしてのこと。
それがツナの友人、山本であろうが、スクアーロであろうが救おうとしていたはずだ。おそらくは落ちるのは山本だと思っていたのだろうが。
ディーノも自覚しているし、を見ても思うが、自分たちは似たもの同士だと思う。

このお人好し過ぎる心は、きっとマフィアには向かない・・・

「ディーノ!よこさないなら撃つぞ!」

が答えを催促する。ディーノの後ろに佇む部下のロマーリオは、友人だから撃たないだろうと思っていたが、の目がだんだん真実味を増してきたのに気がついて、そっとスーツの中に手を忍ばせ、拳銃の準備をしようとした。

「やめろ、ロマーリオ。」

その動きをディーノが制する。

「どうする気?ディーノ。スクアーロをアンタがどうしても連れて行くというのなら、アタシはアンタを殺してでもスクアーロを奪い取る。」

目がギラリと光る。
だが、銃口が少しだけ震えていた。
本当は優しい。躊躇いもなく人を殺せるような心の持ち主ではないことは、ディーノもよくわかっている。
まして、仲のいい級友を殺せるわけが無い。でも、目は本気だ。

「どうしてそこまでスクアーロを欲しがる?」

「・・・愛してるから。」

ディーノの心にナイフが刺さった。

愛してる

その言葉が、やけに大きく響いた。
心がズキズキと痛む。まるで本当にナイフを突き立てられたようだ。
わかっていた。わかっていたことではないか。

「・・・・・・っ」

抱えていたスクアーロが、かすかにの名を呼んだ。
その名を呼ぶ掠れた声が、さらにディーノの心臓を鷲掴みにする。ちらりと盗み見ると、意識が無いのがわかる。
それでも・・・スクアーロはの名を呼んだ。本能でを求めた。

「・・・っ」

決断を求められたディーノ。
銃口を向けたままで睨み続ける。自分の肩で苦しげな呼吸を繰り返すスクアーロ。

「・・・ディーノ!」

痺れを切らしたが声を上げる。
さらに深く・・・抉るような痛みが胸を締め付ける。

「・・・お前にはスクアーロはやらない。」

正しくは、スクアーロにお前はやらない。と言いたいところなのだが。

バン!!!

弾丸が頬を掠めた。じわりと血がにじむ。
とっさにロマーリオがスーツから拳銃を引き抜いたが、結局その行動もディーノが制した。
撃った本人は真っ青な顔をしている。

「・・・あ・・・ぁ」

手がガタガタと震える。右手から地上へ・・・ゴトン、と音を立てて拳銃が落ちた。

「聞こえたか、お前にスクアーロはやらない。変わりにお前が一緒に来るんだ。」

「・・・え?」

その台詞に、訝しげな表情を浮かべる

「ボス・・・」

わかってるよ、ロマーリオ。自分に銃口を向けて、さらには発砲した女を連れて行くなんて・・・って言いたいんだろう?
でもこのままスクアーロを渡してしまえば・・・僅かな望みも絶たれてしまう。
少しでも・・・の近くに居たいんだよ。わかってくれ、ロマーリオ。

「俺は、俺の後輩のためにこいつの行く末を見守る義務がある。お前がどうしてもスクアーロの看病がしたというなら、俺と一緒に来い。同じボンゴレの同盟に居るファミリーのボス同士なんだ、別に問題があるわけでもないだろ。」

「ディーノ・・・ありがとう。ごめんなさい。」

あぁ、そんな優しげな・・・泣きそうな顔で微笑むなよ・・・。

ますます心が締め付けられる。
望みは少ないことはわかってる。さっきの口からスクアーロのことを「愛している」と聞いたばかりだ。
それでもディーノは、僅かな望みに賭けたいと・・・自分がジャッポーネでアジトにしているホテルへを招いた。

すいません。ディーノが可哀想なことに・・・!!
関係としてはスク×ヒロイン←ディーノみたいな・・・
ていうか、カンツォーネって何だっけ(おい)・・・音楽用語だっけ?
なんかイタリアっぽい響きだから使ってみたけど・・・

リボーンの作品のイタリア語の題名は日本語→英語→イタリア語で翻訳して作っているので
生きたイタリア語なのかどうかはいまいち定かではありません(爆)。

La dea di aiuto, la dea della distruzione:救いの女神、破壊の女神