本当に愛しく思うから。
だから私は貴方に前線に出て欲しくないの。
貴方の綺麗な顔が、憎しみに醜く歪むのを見たくないから。
貴方には、いつも笑顔でいて欲しいと、心から願っているから。
−月と甲羅−
円山の同期の戦士、。
円山とはともに核金を渡され、その核金を元に作られた武装錬金が非常に相性のいいものだった。円山の武装錬金は、風船爆弾。対しての武装錬金は扇だった。普通に考えれば武器にならなそうな代物だが、彼女の武装錬金の特性は風を自由自在に操ること。鎌鼬のように風を尖らせることもできれば、風船を穏やかに運ぶそよ風を作り出すことも可能。円山のコントロールだけではどうしても限界のある風船爆弾のコントロールをが行うと、それこそ無敵にも近い効果を発揮した。
それゆえ、二人は指令をともにこなすことが多かった。
ともに年頃の男女。長い時間一緒に過ごしていて、惹かれぬわけがない。お互いがお互いに惹かれあい、恋人同士になるのに、そう長い時間は要しなかった。
しかし、円山には気になる点が一つあった。
ホムンクルスを破壊するときのの背筋が凍るような憎しみに満ちた顔・・・
それだけが、どうしても好きになれなかった。どれだけ酷い目にあってきたのか、お互いの過去は分かっているつもりだった。自分だってホムンクルスを憎いと思う。だって同じような境遇で生きてきたのだ。彼女がホムンクルスに対して憎しみを覚えているのもよく分かる。分かってはいる。分かってはいるのだが。
二人での任務を終え、本部に戻った。久々に、少し長めの休暇を与えられた。普通なら高校に通っている年代。普通の恋人同士なら学校が終わったら一緒に下校して買い食いしたりしながら楽しいひと時を過ごしているのだろうが、錬金戦団に籍を置く二人にそんな平穏な時間など無いに等しかった。
久々の休暇。二人はそのうちの初日を遊び通した。朝の10時には街へと出掛け、買い物をしつつゲームセンターによってプリクラを撮って。昼食を摂ってカラオケに行き、カラオケが終わるとまた街へと繰り出して買い物をした。ごく普通の恋人同士として過ごした。
その帰り道。一番会いたくない相手に出会ってしまった。
ホムンクルス。
どうして休日ぐらいそっとしておいてくれないのか。円山は顔を顰めた。しかし、錬金の戦士として、ホムンクルスを見つけたからには倒さないわけには行かない。円山はちらりとを盗み見た。そこには・・・やはり、憎しみに顔を歪めたがすでに武装錬金を発動させていた。だけに任せるわけには行かない。円山も武装錬金を発動し、戦闘体制をとった。
「身長、どれくらいかしら?」
「2メートル50センチってとこ?」
「多く見積もって、20個爆弾用意すればいいわね。」
「そうね。」
ホムンクルスが二人に気付き、にじり寄ってくる。辺りは幸い人通りの少ない道。一般人に見られずに済みそうだ。二人の周りには円山の風船爆弾が取り囲んでいた。手をかけようとしたホムンクルスに、風船爆弾が当たり、爆発をした。1回、2回、3回・・・
ホムンクルスの身長は規則正しく縮んでいく。さすがのホムンクルスも風船爆弾の特性に気がついたのか、少し距離を置き、攻撃の機会を窺うようになった。
「・・・意外と賢いホムンクルスね。」
「そうね・・・私の出番ね。」
ふと円山がの方に目線を移すと・・・今まで以上に顔を歪ませたがいた。大きな扇を構え、今にも風を起こさんとしていた。
「・・・」
名前を呟くことしかできなかった。その恐ろしいまでに憎しみをたたえた彼女の姿が、まるで自分の知らない人間のように見えて。
「円山!!危ない!!!」
我に返ったときには、身体に強い衝撃を受けていた。大きく宙を舞った身体は、黒いアスファルトに投げ出された。薄れ行く意識の中、周りの風船爆弾は消滅していき・・・ただ、がずっと自分の名前を叫び続けているのを聞きながら、円山は意識を手放した。
消毒薬の匂い。少し硬いシーツ。やけに眩しい白い壁。
目を覚ました円山が最初に目にしたものは、真っ白い天上だった。ここが本部の医務室だと気がつくのに、少しの時間を要した。
助かったんだ・・・
身体を動かそうとしても動かない。あれだけ身体を強く打てば、全身打撲は免れないだろうと薄れ行く意識の中でそう思っていたが、その予想は見事に的中したらしい。
カチャっとドアノブを回す音がした。視線だけをドアの方へと向けると、そこには団服を着たが立っていた。目が充血している。
「・・・泣いてくれたの?」
「当たり前でしょう?貴方を守れなかったんだから・・・」
その白い頬に、次々に水滴が流れる。痛む身体に鞭打って、円山はベッドから起き上がりを抱きしめた。
「・・・。お願い。もう前線に出ないで・・・」
その懇願とも取れる掠れた言葉に、は不信感を露にする。
「どうして・・・?私がいなければ困るのは貴方でしょ?」
「確かに・・・貴方の武装錬金と私の武装錬金はとても相性がいいと思う。でもね、私は一人で戦える。愛した人を守ることも出来る。なぜ、私が攻撃に対する反応が遅れたのか、教えてあげましょうか。」
包帯だらけの胸の中で、愛しい少女はカタカタと肩を震わせている。啜り泣きが耳について離れない。そんな少女が、力強く頷いた。
「貴方の・・・憎しみに満ちた顔に一瞬にして心を奪われてしまったから。愛しさからじゃない。貴方の憎しみに満ちた顔に恐怖を覚えたから。私はもう・・・貴方にあんな顔をして欲しくないの。ずっと笑顔でいて欲しい。ホムンクルスが憎いのはよく分かる。私だってホムンクルスは憎いわ。親兄弟を殺されたのももちろんだけど・・・貴方にあんな顔をさせるホムンクルスが憎いの・・・」
痛みも忘れ、円山はのことをきつく抱きしめた。胸に顔を埋めていたの啜り泣きは止んでいた。
「わかった・・・もう前線には出ない・・・ただ一つ約束して。」
円山の腕から解放されたは円山の唇に小さく口付けた。
「絶対に死なないで。私を守りたいと思うなら死なないで。貴方が死んだら、私も死ぬから。」
「えぇ。約束するわ。」
白い空間の中で色を放つ二人の影は、一つに重なった。
「ふふ。」
「何?気色悪いんだけど。」
「なんでもないわ。昔のことを思い出しただけ。それにしても、人って変わるものよね。10年前には前線で活躍していた貴方が、今では衛生兵として再殺部隊にくっついて歩いてるんだから。」
「いいの!・・・違う形で貴方を守るためなんだから。」
「・・・愛してるわ。こんなクサイ台詞、普通の男じゃいえないでしょうけど。死ぬときは一緒よ。」
「や、やめい!!恥ずかしい!!」
「ったら真っ赤になっちゃって・・・可愛いわ♪」
「もう!!!」
このバカップルに再殺部隊の面々が飽き飽きしている姿を、本部の人間はしょっちゅう目にするとかしないとか。
やっちまいました!円山夢!
個人的に円山くん27歳くらい希望(細かい)。
すいません、普通に26〜28歳くらいの人が好きなんです。
ヒロインも一応同い年くらい、ってことで。
とか書いてれば、話は一体何歳くらいの話なのか
自ずと見えてきますよね。
この話書いたあとに、円山くんが23歳であることが判明。
ちょっと複雑(苦笑)。