「おい、八雲!聞こえなんだか!表に玉藻が来ていると尊が言っておろうが!」
私は目の前で酒を手酌で飲む男に言い放った。仮にも出雲の妖たちの長である者が、このような自己中心的な人物でよいのか甚だ疑問ではあるが・・・私よりも長く生きてきたこの男の性格が今更直ることは絶望的であろう・・・
−世界の中心は・・・−
「あら、そんな剣幕で怒らないでよ、せっかくの美人が台無しよ?。」
「黙れ。女の科を作って見せたとて、私に通じないことは知っておろうが。」
の前で寝転がり手酌で酒を楽しむ八雲が女らしい猫撫で声を出しても、恋人であるはそれをぴしゃりと一蹴した。「連れないわねぇ」などと一言漏らしつつも、その酒を飲む手を止める様子は一向になかった。それを呆れた様子で眺める。盛大な溜息をわざと聞こえるように吐いてみせる。
その様子に少し機嫌を損ねたのか、八雲がムッとした顔をした。
「何怒ってんのよ?。」
「怒っておるのではない。同情しておるのだ。お前のような男の下で暮らす出雲の妖どもにな。お前が待たせたことであの玉藻が怒って攻撃を仕掛けてくるかもしれないなど、考えぬのか?」
「あら、あんな田舎狐にそんな大それたことが出来るわけないじゃない?」
「私とて、あの玉藻を知らぬわけではない。彼奴等の一族は兆星の眷属の中でも最も残忍と呼べる者達。それなのに、お前は出雲の民達のことも考えずこうやって酒を飲んでいる。少しは民達のことも考えてやれ。全く、貴様は自己中心的だな。」
「自己中心的・・・」
八雲の巨体が揺らめき、横になっていた寝台のようなところから立ち上がったかと思うと、の元へと歩み寄る。それを微塵も動くことなく、小柄な体で睨みつける。その眼光は、鋭く八雲に突き刺さるが、八雲にとってその視線も快感になることは言うまでもない。愛しい女が自分だけに視線を送っている。それが、八雲にとってどれだけ嬉しい事実か。恐らくには分かっていないのだろう。
「アタシは、自己中心的なんかじゃないわよ?」
「なれば、何故民の事を考えぬ。」
「確かに、民の事は考えてないわ。でも、の事は考えてる。少しでもアンタの傍に居たいから・・・少しでも二人きりで居たいから、こうやってあの田舎狐が中に入ることを拒んでいるんじゃない。」
「それが自己中心的だと何故分からぬのだ!」
は、抱きしめようとする八雲の腕を振り払った。
それに驚いた八雲はたじろいだ。も自分と一緒にいたいと思ってくれていると思っていた。それは、八雲の感情だけで、はそうは思っていなかったのだろうか。不安が八雲の心の中に頭を擡げる。
「・・・アタシと一緒に居たくないの・・・?」
その不安を、口にせざるを得なかった。とにかく不安で。魂の奥底で求めているが、自分と一緒に居たくないと、そんな言葉が彼女の口から出るのが怖いのに。それでも八雲は、確認しなければ気がすまない。もしも・・・一緒に居たくないと言われたらどうしようと。そんな重い気持ちが、八雲の心の中に暗雲の如く立ち込める。
また、呆れたような大きな溜息がの口から漏れる。八雲を見上げるその眼はまるで・・・駄々を捏ねる子供を見る母親のような・・・。
「誰が一緒に居たくないと言った?どちらにしろ、玉藻とは会わねばなるまい。それが時間が前後するかの話。時間が遅くなったことで、奴の怒りを買うのは得策ではないといったのだ。・・・共に時間を過ごすなら、奴が帰ってからでも問題はあるまい?」
「・・・ねぇ、?さっき、『一緒に居たくないなんて言っていない』って言ったわよね?それって・・・」
「・・・私も八雲と一緒にいたいということだ。」
目線を逸らし、仄かに赤くなる。その仕種が、いかに八雲の気持ちを惹き付けるのか。当の本人は気付いていないだろう。
「・・・」
八雲の大きな体がの事を抱きしめる。その手が、するりとの着物の中に滑り込む。
「な、貴様!何を・・・」
「だってぇ・・・あんな可愛いところ見せられたらもう我慢できないわよ・・・」
ドゴン!
部屋に鈍い音が響く。腹を押さえて八雲は膝をついた。
「イッタ・・・何すんのよ・・・・・・?!」
目の前には、気を滾らせたの姿が。まるで鬼を思わせるその姿に、さすがに八雲も恐怖を覚えた。
「・・・私の言うことがわからなんだか、この色情狂め・・・成敗してくれるわ・・・」
「ま、待ちなさい、!!分かった、ちゃんと玉藻に会うから!!!落ち着いてー!!」
その後、玉藻が八雲に謁見した際に、頬に微かな発赤を見たのは言うまでもない。
どうやら、八雲の中で世界はを中心に回っていることは、には到底知りえない事実のようだ・・・。
最強ヒロイン☆
八雲様でも彼女には敵いません。
八雲様は好きで彼女には攻撃出来ないけど
彼女はお構い無しですから・・・(爆)
・・・今回はちょっと短めな話。