「暇だったら部屋に訪ねて来いと言ったのに・・・
あやつの部屋は一体何処にあるんだ?!」
−迷宮−
が八雲に拾われ、2週間ほどがたった。
八雲が傷を持ち去ったとはいえ、衰えた体力はなかなか戻らなかった。
気がつけば2週間という時があっという間に過ぎ去っていた。
2週間前、寝かされていた布団の中で八雲にあったあと、
は一度も八雲を目にしていない。
「暇だったら部屋に訪ねて来い」
そう言われたのを思い出し、3日前から八雲の部屋を探して
この館の中をうろうろと歩き回っているが・・・一向に見つかる気配はない。
「いくらなんでも、この館は広すぎだろう・・・」
すっかり疲れ果て、は大きな柱に背を持たれ、その場に座り込んでしまった。
遠くで聞こえる滝の音。
その音を聴きながら、覚醒と昏睡の狭間で初めて八雲に出会ったときのことを思い出す。
目を瞑ると、その様子は鮮明に瞼の裏に映し出される。
微かに聞こえる心地よい滝の音は、の意識から遠ざかって行った・・・。
「・・・っと、ちょっと、起きなさい。ったら!」
聞き覚えのある声に目を覚ました。
どうやらそのまま廊下で眠ってしまったらしい。
「八雲・・・?!こんなところで何を・・・」
「それはこっちのセリフよ!何で廊下で寝てるのよ、アンタは。」
その言葉を聴いて、驚いて辺りを見回す。
何処をどう間違っても、廊下以外の何ものでのないその風景に、
全て状況を把握したは、一気に顔を赤らめる。
「わ、私は・・・」
立ち上がりながら、八雲の顔に視線をやり、は息を呑んだ。
自分を見つめる真剣な眼差し。その眼差しは吸い込まれるようで・・・
は何も言えずに、八雲の瞳を見つめ返した。
気付くと、八雲は壁にを押し付けるような形になっている。
自分の胸ほどまでしかないの耳元に、身体をかがめて口を近づけて呟く。
「ここから逃げ出すつもりだったか・・・?」
その低く、耳に残る声に、の胸は今まで感じたこともないほどに痛んだ。
しかし、その胸の痛みの意味を解せるほどは経験豊富ではない。
「違う・・・」
と一言反論することしか出来なかった。
「何が違うの・・・?言って御覧なさい・・・」
の尖った耳を、その長い舌でちろちろと舐める。
「やめぬか・・・私は八雲の部屋を探していただけだ!」
そのむず痒いような感覚に我慢できなくなったは、力の限り八雲を跳ね除ける。
妖狩をしているとはいっても、所詮女の力。八雲は微かに身じろぎしただけで終わった。
「私の部屋を・・・?なんで?」
「き、貴様が言ったんだろう!暇なら訪ねて来いと!!」
「あらぁ、そうだったかしら・・・?」
首を傾げて考え込む八雲。その仕草に、自分以上の女らしさを
感じてしまったは、目を逸らす。
なんなんだろう、この雰囲気は。
見た目は、はっきり言ってまるっきり男。
自分よりはるかに高い身長。見上げなければ顔など見えない。
その鍛え上げられた身体、低く響く声。
どれをとっても男のそれなのに、何故か雰囲気は男のような女のような・・・
そんな不思議な雰囲気を持つ八雲を、は不思議そうに見つめた。
「アタシの顔に何かついてるかしら?」
「い、いや違う・・・そ、そんなことよりも!!」
いきなり叫んだは、八雲の羽織っていた着物の前を、
勢いよく開いた。もともと乱れていたその着物は、ますます乱れ、
まるでが八雲の着物を剥ぎ取ろうとしているようにしか見えない。
「な、何をする?!」
予想外の行動に、八雲も相当驚いたようで、
思わず素で男言葉を使っての行動を制しようとした。
の視線は、まっすぐ右下腹部を見つめていた。
その視線の先には・・・自分が負ったのとまるで同じ場所にある大きな切り傷。
「・・・やはりな。」
さっきとは比べ物にならぬほどの胸の痛みが、を襲った。
理由は分からぬが、の目頭が熱くなる。
「・・・気付いていたのね。」
「当然だ。他のものに生命力を移すための術など、私は知らぬ。
なぜ・・・下手したら、貴様が死ぬやも知れぬのに・・・」
「アンタに生きて欲しかった。それだけのことよ。」
「私が生き永らえ、貴様も生き永らえれば・・・私は貴様の命を狙うかも知ぬのだぞ?」
「命を狙われても・・・敵同士であっても・・・
俺はお前と同じ時間を生きたかった。せっかく重なり合ったこの時間を
無駄にしたくなかった・・・。泣くな・・・・・・」
気がつくと、の瞳からは真珠のような涙が零れ落ちていた。
堪えようとしても次から次へと零れ落ちてくるそれは、とどまることを知らない
「私は・・・なぜ泣いて・・・」
「・・・その答えは自分で見つけなさい。」
優しくを抱きしめるその屈強な腕に、心地よい安心感を覚える。
この腕の温もりを・・・ずっと感じていたいと・・・
抱きしめられながらはそう感じるのだった・・・
ご所望があった「命懸けの一目惚れ」の続編です☆
なんだろう、この中途半端な終わり方・・・
この分だと、もう1本書かなければいけないみたいですね・・・