今目を閉じても思い出すのは、自らの村の焼け落ちる姿・・・
そこにお前の姿はない。
それはよいことなのだろうが・・・
俺の心は常にお前のことを求めているのだ・・・


−風−


・・・眠れない。
目を開いて、手を伸ばせば届くほど低い天井を見据える。
押入れの下で寝ているのだから、天井が低いのは仕方がない。
凄まじい風の音で、目が冴えて眠れない。
こんな夜は・・・あいつのことを思い出してしまう。
幼い頃に、俺の元を去った少女。
彼女が去ったのも、こんな凄まじい風の吹く夜だった。
今でも彼女のことを思うと、今すぐに会いたい、そういう気持ちに駆られる。

俺が彼女に抱いていた感情が「恋」というならば・・・
彼女が俺の元を去ってから、俺は「恋」をしたことが無い。

彼女は「獏」という妖の一族・・・大きな兆星の元につくことも無く、
ずっと放浪を続ける、流浪の一族。
そんな彼女が1年ほど、俺のいた鵺の村に滞在した。
同じ年代の子供もおらず、不意に訪れた彼女が唯一の友人だった。
そんな彼女が去ったのは、村が襲われる前夜だった。

「獏が悪夢を運んできたんだ。」

「あいつさえ来なければ、この村が襲われることは無かったんだ。」

大人たちは口々にそう言った。
そんなことを言っても、結局生き残ったのは俺一人だった。
当の俺は、そんなことは微塵も考えていなかった。
ただ幼心に思ったのは・・・

「あいつがいてくれれば、悪夢を食い尽くしてくれたかもしれないのに・・・」

そんなことだけが、頭の中をぐるぐると回っていた。

・・・幼い日のことを思い出していると、ますます目が冴えて眠れない。
襖を開けて、外に出る。
そこら辺に、凄まじい寝相の野郎どもが転がっていた。

「ふん・・・」

呆れつつ、窓を開けて外へ出た。
凄まじい風が吹き荒れている。少し肌寒い。
そんなことを感じながら、屋根へとあがった。
長い髪が、風と共に舞い上がる。

心に隙間風が吹き込むような夜。
あの日と同じ、吹き荒ぶ風の中、彼女の・・・の妖気を探す。
いつもなら、の妖気など微塵も感じないのに、
今日に限って微かに・・・近くにいるような妖気を感じた。

・・・!!」

いてもたってもいられず、その妖気の出所を探す。
精神を集中し、流れてくる妖気の糸を辿る。

「見つけた・・・」

その妖気に向かって、走り出した。

どれほど走っただろう。深い森の小さな空き地についた。
近くに、の気配を感じる。
声を荒げることを好まない俺が、
を求めるあまり、いつもは出さない声を出した。

「・・・!!」

闇の中から、女の声が聞こえた。

「誰だ・・・?」

「凶門だ・・・。覚えているだろう?」

「ま・・・さと?」

白い着物を翻して、木の上から女が降り立った。
その姿は、昔の彼女の姿とはかけ離れていた。
悪い意味ではない。いい意味で・・・期待を裏切られた。
は・・・美しく成長していた。
真っ黒な髪が風に靡く。両目を布で覆い、額には第3の目が光っていた。
・・・獏の力が目覚めた証。第3の目。

「本当に凶門なのか?」

まっすぐに俺を見つめる女は、見た目こそ変わったが、
に他ならなかった。

「お前がこんな近くにいるとは思いもしなかった・・・。」

「それは・・・」

なぜか言葉に詰まる。心なしか頬が赤くなっているように見える。
風は大分収まってきた。髪が白い着物に絡み付いている。

「・・・会いたかった。」

「凶門・・・」

正直な気持ちを、口にした。滅多にそんなことはしないが、
正直な気持ちを伝えなければこのまま・・・また離れてしまうと思った。

「・・・凶門・・・飛天夜叉王と一緒にいるんだろう?」

「あぁ。」

「・・・心配で・・・いてもたってもいられなかった・・・。」

「・・・」

嬉しい・・・。正直にそう思った。
しかし・・・それを自らの口から言えるほど俺は強くない。

「お前さえ・・・構わないなら・・・俺の元へ来い。」

「凶門・・・!」

お互いに求め合っていたことは明らか。
その二人に、甘い言葉は一切必要なかった。
白い着物に包まれた華奢な身体を抱きしめた。



「ぅおい!!凶門!!誰だよ、このねぇちゃん!!」

朝一番にけたたましい声を上げたのは、
この家の主、日明天馬。
はというと、両目にかけていた布を額の第3の目にかけ、
両目で世界を見ている。
天馬の姿を見て、は立ち上がった。

「・・・お邪魔してます。」

平然と答える。その言葉がおかしくて、思わず吹き出す。
声を上げず、肩を震わせて笑いを堪えていた。

「なんだぁ?可愛い子がいるじゃん♪」

「きゃぁ!!」

火生に後ろから抱きつかれたは、今までに聞いたことも無い悲鳴を上げた。

「貴様、何をやっている!!」

怒った俺が凄むと、火生だけではなく、その場にいた者皆が
無言になった。
しまった・・・我ながら大人気ないことをした・・・そう思った。
は怯えて、俺の後ろに隠れるようにしてこう言った。

「ずいぶん賑やかだな。でも、楽しそうだ。」

にこっと微笑む
このまま、この時間が過ぎていけばいい。
と過ごすこの時間が・・・
何もないことなどありえないだろうが・・・
出来れば誰にも邪魔されず、このままずっと一緒に過ごしていきたい・・・。


凶門・・・好きですよ!好きだけど・・・なんだろう・・・
この書き辛さ。
もうちょっと修行が必要なようです・・・。