が森へ来て一週間が過ぎた。
特に何をするわけでもなく、二人は共に過ごした。
傷だらけだったの身体も、大分回復してきた。
の顔には、笑顔が戻ってきた。
「きゃぁ!!」
「どうしました?!」
「苔に滑った・・・」
生まれてこの方森の中を歩いたことのない少女にとって、
些細なことも命取りになる。
「・・・」
雷はそっと無言でそっと手を差し出した。
「・・・」
も、無言でその手を取る。
「ふふ・・・」
「・・・なんです?」
照れながら、雷はをチラッと見る。
「なんでもないわ。」
は嬉しそうに言った。優しい笑顔を浮かべながら。
その笑顔を直視できず、雷は視線を逸らしてしまう。
恋愛感情など邪魔なだけだ・・・
自分自身に言い聞かせながら、雷はに接していた。
しかしその決意とは裏腹に心惹かれていく自分が居るのもまた事実。
翌日、森には雨が降った。
雨に当たったことがなかったは、嬉しそうに森の中を歩く。
その後ろを、少しはなれて雷が歩く。優しい笑みを浮かべながら。
「あまりはしゃいでいると、転びますよ。」
「大丈夫よ」
妖しく光る苔の上を軽々と渡っていく。
雷はひやひやしながらその様子を見ていた。
苔の生した大きな岩に飛び乗ったは、浮遊感に襲われた。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
雷の視界からの姿が消えた。
「!!」
慌ててが消えた岩の上に立ち、の姿を探した。
その岩の向こうは、そのまま崖になっていた。
その下に、服が赤く滲んでいるの姿があった。
「、!大丈夫ですか?」
は雷の呼びかけに全く反応を示さない。
雷の叫び声だけが森の中に響く。
雷は岩から飛び降り、横たわるのもとへと向かった。
静かにの横に膝をつき、身体を優しく抱き上げる。
「・・・目を開けてください。」
「ら・・・ぃ・・・」
の口から苦しげな声が漏れた。虚ろに雷を見つめる瞳。
その視線は、虚ろではあるがしっかりと雷を捉えている。
「大・・・丈夫ですか?」
大丈夫なんかじゃない。そんなことは雷も分かっていた。
しかし、どう声をかけていいか分からなかった。
「大丈夫・・・」
苦しそうに答える。
いつの間にか雨は上がっていた。
「雷・・・耳を貸して・・・」
は、雷の服を掴み自分に引き寄せた。
「貴方と一緒に生きたかった・・・。それが私の見つけた
新しい生き方だったのに・・・。」
「な、何を・・・」
言葉が詰まる。精一杯の笑顔を作って接しようとするが、
どうしても顔が歪んでしまう。
「一緒に・・・生きましょう・・・」
その言葉を聴いたは、今まで見せた中で最高の笑顔を浮かべた。
「ありが・・・と・・・」
雷の顔に触れようと伸ばされた手が、力なく地面に落ちた。
「・・・?・・・ー!!」
雷の腕の中で、は息絶えた。
森の中は雨上がりの優しい匂いに包まれ、
露がきらきらと輝いていた。
涙は流れなかった。
何も感覚がなかった。
墓を掘り、そこへの亡骸を埋めたとき、
初めて涙が溢れ出した。
「ちゃんと伝えたかった・・・愛してますよ、。
出会ってから・・・これから先、ずっと永遠に・・・」
の墓には、白い花が捧げられた。
はい、完結です。
長いですなぁ・・・。
悲恋・・・なんですよね、こういうの?
炎雷剛刃紅の衆は人間じゃないんで、
どうもハッピーエンドの話を考えづらいです・・・。