私の秘密を暴けるのはきっと貴方だけだから。
私の送る暗号に気がついて。そして解読して。
私にはもう時間がないから。
貴方の時間は永遠だけど、私の時間には限りがあるのだから・・・



−Can You Keep A Secret?−



プッシュっという音がして、鉄の扉が開かれた。そこには、炎雷剛刃紅の衆全員がソファに座っていた。5人の視線が一気に扉へと向けられる。
そこには、金髪をアップに束ね、緑色の目をした美しい女が立っていた。上下黒でまとめた服の上に白衣を纏い、厚い重そうなファイルを持っている。
創られた身体であるとはいえ、自分自身の意志を持つ5人。少なからず彼らは彼女に対して好意を持っていた。他の研究者とは違い、彼らの身を一番に考え時には他の研究者と対立する彼女。

・・・どうかしたのか?」

声をかけたのは長男の炎だった。

「あぁ、紅に用があってきたの。申し訳ないんだけど、出力検査をしたいの。付き合ってくれないかしら。」

にはよくわかっていた。彼らにとって、「検査」というのは自らを創られた「モノ」だということを認める行為だということを。炎、刃、雷、剛の4人は、快くとはいえまいが、検査をさせてくれた。ただ。三男である紅だけは違った。なんだかんだ理由をつけてことごとく検査をさせようとはしない。たまに強制的にプログラムを変更してまで検査をしたりする。それがどれだけ彼を苦しめているか。は彼に検査の話を持ちかけるたびに心を痛めているのだった。

「・・・」

その場にいた全員が目を疑った。紅が無言での申し出に従ったのだ。それに一番驚いているのは自身だった。

「あ、ありがとう・・・」

部屋に残った4人に会釈をして、その部屋を後にした。
無言で無機質な鉄に覆われた薄暗い廊下を歩き、ラボへと向かう。
その途中で口を開いたのは、紅の方だった。

「おい、。」

「何?」

「何か、隠し事してんじゃねぇの?」

その質問の意図を理解できない。別に彼に隠し事などしているつもりはなかった。しているとしたら、彼に想いを寄せていること。でも、恋愛感情などプログラミングされていないはずだから、紅に恋をしても報われないことを一番よくわかっているのはだった。

「別に・・・何も。」

「嘘つけ。顔色・・・悪いじゃねぇか。お前、もしかして・・・」

まさか、紅にそれを気付かれるとは思ってもいなかった。まだ初期の段階。他の研究員さえ気付いていないはずなのに。

「よくわかったわね・・・タナトス症候群よ。」

タナトス症候群・・・それは、人間の間に流行り始めた病だった。徐々に身体の免疫力が低下し、毛細血管が細くなってくる。結果、様々な病に罹り、その上身体の先端部分から壊死して、崩れ落ちてくる。様々な病に冒され、結局は死に至るという、治療法の確立されていない病。

「・・・

の目の前は真っ黒になった。紅に抱きしめられていると気がつくのに、少しの時間を要した。これは恋愛感情からきている行動なのか・・・。にはもはや何も考えられなくなっていた。

「紅・・・」

涙がとめどなく流れてきた。死が怖いわけじゃない。ただ、彼を心無い研究者たちから守ってあげることが出来ない自分に腹が立った。事故で死ぬならかまわない。彼を研究者たちから最後まで守ってあげられるから。でも、病はそうはいかなかった。徐々に動けなくなり、ここに来ることさえできない。ベッドの中で、紅が繋がれて嫌だと足掻きながら無理やり検査や実験をされている姿を想像している自分が、すぐ未来まで来ている。それがたまらなく辛かった。

「ごめんなさい・・・最後まで貴方を守ってあげられなくて・・・。」

は紅の背中に手を回した。紅も、の体の骨が折れてしまうのではないかというほどの強い力で抱きしめた。

「・・・ずっと、一緒にいたかったんだ。そんなことは無理だって分かってる。お前は人間だし。寿命がある事だってわかってた。でも、俺は・・・永遠の時をお前と生きたかったんだ。」

意志を持つ創られた者に、予想外の事が起こっていた。プログラミングされていないはずの恋愛感情が芽生えていたのだ。

「紅・・・」

と紅は、廊下で最初で最後の口付けを交わした。



その後、研究室にはの姿が見えなくなった。炎雷剛刃紅の衆の紅以外の4人達は、結局に起こったことの真相を知らぬままに、それぞれ他の星へと送られた。
封印された紅のプログラムや回路を点検していた研究員の目にも、恋愛感情のプログラムは見つけられなかった。・・・人間の心は、決してデータとして保存することは出来ないものなのだから。



永い眠りについていた紅。ノアから外を眺めていることが多かった。

「紅兄さん・・・」

声をかけたのは末っ子の剛。
紅の口から放たれた言葉は・・・

「愛していたんだ・・・ずっと、眠っている間も。この宇宙も、一緒に見たかった・・・」



名前だけは聞かれぬように心の中に留めて・・・。


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出来上がりましたー。
すいません、微妙な感じで・・・
チャンネル5とか書くと、
どうしても死ネタになっちゃいますね・・・。