まだ僕がGCだった頃、僕には好きな子がいた。
鳥人である僕に普通に接してくれた唯一の娘。僕を庇って死んだ…。
その頃から僕の頭の中は狂い始めたんだ…。


−VOICE−


 GCでもGSなくなった僕は、テンパに戻りハヤテと共に暮らしている。
久しぶりに、一人で散歩に出たときに、彼女に出会ったんだ。

「月女…」

 思わず呟いた。好きだった彼女に瓜二つだったから。
まるで生き返ったようで目を疑った。

「…人違いじゃないですか?私は月女なんて名じゃありません…」

 僕のことを見つめる瞳。その瞳は、やっぱり月女にそっくりだった。

「ごめんね…死んだ知り合いにそっくりだったから…。名前はなんて言うんだい?」

と言います。」

 と名乗った少女は、太陽よりも眩しい笑顔で微笑みかけてくれた。
僕の顔が、自然と緩んだのがわかった。


愛しい…


 この気持ちは、月女に彼女を重ねているだけだと思った。
でも、何度か会ってを知っていくと、月女以上に愛しくなっていった。

 そんなある日、事件は起こったんだ。

 は、森で薬草を採って薬を作り、それを売って生活をしていた。
いつものように森へ薬草を採りに入ったは、なかなか戻ってこなかった。
心配になった僕は森へを捜しに出掛けた。
 その森は、最近盗賊が住み着いたともっぱらの評判だった。

「いや…やめて…!」

 遠くで聞き覚えのある声がした。
 その方向へ走って行って一番最初に見たもの。
大きな刀を振りかざした大きな男。その足元で恐怖に震えて泣いている

「貴様ー!何をしている!」

 とっさに護身用に持ってきた刀を引き抜き、その男に斬り掛かった。
 僕はの目の前で、人を斬った。GSだった僕に、
たかが盗賊がかなうわけもなく、その大きな男はすぐに息絶えた。
 返り血を浴びた僕が手を差し伸べると、
は怯えて僕の手を取ろうとしなかった。

…」

 僕はを助けようとしたことなのに、
それを理解してもらえなかったことがとても悔しかった。

 僕たちは、少し離れて村へ歩いて帰った。

 それからしばらく、は僕を避けていた。
絶対目を合わせようとしなかった。
 目の前で人が殺された。命を救う側のにとっては、
それが信じられなかったんだろう。頭ではわかっているのに…。


自業自得…。

 今まで何も考えずに人を斬ってきた報い。
 が僕を見る瞳は、返り血を浴びても何も感じない、
そんな僕に対する戒めのように感じた。


悲しくて…ただ悲しくて…


 僕は生きる糧を失った。そう感じたときから、には近付かなくなった。
彼女の視線が僕の心に矢のように刺さるのが苦しくて仕方なかったから…。

 ある日、朝からハヤテは留守にしていた。一人で寛いでいたとき、
ドアの前に人の気配を感じた。

「誰かいるのかい?」

 ドアを開けると、誰もいなかった。でも、家の隅に目をやると…
水色のスカートが覗いていた。
 見覚えのあるスカート…。愛しい人の一番気に入っている服を
僕が見間違えるはずがない。



 明らかにそこには愛しい人がいる。わかっているのに声をかけられない。
ここで話しかけてしまったら、諦めようと決めた、決心が揺らぎそうだったから。
二人はしばらく、沈黙してお互いの気配を感じあっていた。
 その沈黙は僕が破った。

「元気だったかい?」

「えぇ…」

 話が続かない…。何を話していいかわからない。
そんな自分が情けなくて嫌になる。


愛してる。傍にいて欲しい。


この二つがどうしても言えない…。情けない。
愛しいのにそれを言葉にすることが出来ない。
言葉にしてしまえば、ますますを遠ざけてしまいそうで…。
でも…

「君の目の前で人を斬ったのは、君を守るためだったんだ…。」

これだけはわかって欲しかった。

「わかってるわ…。」

「え?」

 からは、僕が一番望んでた言葉が放たれた。
望んではいたけど、期待はしていなかった言葉。

「貴方が目の前で人を斬ったとき、貴方が怖くて仕方なかった。
でも、貴方が私を救ってくれたことは事実だし…。
危険を顧みず私を助けに来てくれたこと、すごく嬉しかった。」

 そういっては切なそうな笑顔を僕に向けた。
僕もつられて笑みを浮かべた。

「お礼を言おうと思っていたんだけど、貴方はどんどん離れて行っちゃって…」

「・・・もう、離れなくてもいいかい?君の…傍にいていもいい?」

 僕は、そっとを抱きしめた。は何も言わずに、抱きしめられていた。

…?何か言ってくれないかな…」

 何も言わないに、思わず答えを求めてしまう。沈黙が怖くて…。
 結局、は何も言わなかった。
でも、その代わりに僕の背中に腕を回してくれた。僕もさらに強く抱きしめた。
 僕は静かににキスをした。唇を話すと、
目の前には真っ赤に頬を染めたの顔があった。

「恋人に…なってくれるよね?」

 僕は微笑みながらに聞いた。は頬を赤く染めながら、
静かに頷いた。

…僕は今まで沢山の人を斬ってきた。でもこれからは…
君を守るため以外、刀を振るわないと誓うよ。」

 僕の放ったこの言葉、この声が、僕たち二人の誓いの言葉になった。



 それから数年、片時も離れずは傍にいてくれる。
 きっとこれからもずっと、傍にいてくれるだろう…。



意外と長かった…。
えっと、今までメルマガで配信した夢小説の中で
個人的に一番気に入ってる作品です。

雹様は、私、大好きです!!